第53話
しかし、「あ、そういえば」と黒目を浮かせた瀬古さんは、すぐに親しみやすい笑顔をこちらに向けて私の心配を打ち消す。
「朝から言おうと思ってたんだけど、耳。可愛いね?」
「……耳?」
自分の耳を指差しながら首を傾げられたがすぐに何を示しているのか理解できず。鏡写しの如く首を傾げて数秒、ようやくイヤリングのことを言っているのだと気がついた。
「あ、ああ!これですね!」
慌てて耳たぶに触れると確かに存在するソレ。産まれてはじめて、異性に、好きな人にもらったアクセサリーだ。
「よく似合ってる」とサラリと褒めてくれる瀬古さん。
アクセサリーなんて似合わないのではないかと不安だった分、お世辞でも褒めてもらえるとホッとする。
「私も朝から思ってた!」と加藤さんと田中さんも褒めてくれて、嬉しさに混じり始める照れ。
「ふふ、直江さん顔真っ赤」
「え〜可愛い〜」
「あの……褒められ慣れてなくて」
火照る顔を加藤さんたちにイジられて、さらに温度が増した気がする。少しでも冷やそうと顔を手のひらで抑えるが、その手も熱を持っているので意味がない。
「……あっつ、」と小さく呟いてお冷やを喉に流し込む。上を向いた顎を下ろすと、カランと鳴る氷。
「初々しくて可愛いね」
「……、」
同時、私だけに聞こえる声が耳に触れた。
グラスをテーブルに置いてすぐに隣の席を見やれば、意味深に微笑まれて……なんだか落ち着かない気持ちになる。
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