第48話

「イヤとか言ってないし」


「ふーん、じゃあいいじゃん。シンプルめなデザインだから大学でも会社でもちゃんとつけろよ?」



ご機嫌にふたつのピアスを手のひらに収め、そのまま会計に行こうとする響だが、重大なことを伝えそびれていたので慌てて止める。



「待って、響!」


「んだよ、まだなんかあんの?」


「あのさ!……わ、私、ピアス開いてない」


「……!」



“盲点”という顔。ピアスを持っていた手がゆっくりと下がり、「そっか、確かに」と納得した数度頷く。



「自分が開いてるから勝手にピアス一択だったわ」


「……」


「じゃあ、イヤリング?」


「……同じデザインのある?」


「あーイヤリングは……ねぇな?」


「……」



響は女性もののピアスだけを元の場所に戻した。


台に置かれたシルバーのフープピアス。男性用は幅が広く、女性ものはそれよりかは華奢なつくり。


響に戻されたそのピアスは心なしか寂しそうで、……なんだか自分を見ているみたいで悲しくなった。



「ね、響」


「んー?」



潔くピアスを諦めてイヤリングコーナーを見て回る響のシャツをクイクイと引いた。


首を傾げる響を見上げながら、顔の位置まで掲げた右手をじわりと開く。



「……やっぱり、これ買って?」


「…………は?」


「穴、開ける。これつけるために穴開けるから」


「……」



……お揃いがいい。


響が「これいいじゃん」って言ってくれた、「お揃い!」って嬉しそうに笑ってくれた……このピアスがいい。

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