第42話

アスファルトに反射した太陽の熱で空気がゆらゆら揺れる中、景色の端に学ラン姿の彼を見つけた。



『響っ!』


『……涼、』



走って駆け寄れば、驚いたようにこちらを見上げる瞳が弛緩し、そして私の手がようやく彼に触れた時……



『うっ、……っ』


『ひび、き……』



響がいなくなったと聞いて、ただの家出であれと願った。


最近荒れていた彼が軽い気持ちで自宅を出て夜な夜な遊んでいるだけだったら、『もう、心配かけたらダメじゃん』って怒って抱きしめようって。ご両親に一緒に謝ってあげようって……そう思っていたのに。



『……ごめん、涼……ごめん、』


『響、何があったの?……ねぇ!』



その場に泣き崩れた彼の学生服は所々ほつれ、ボタンだって取れていた。


首筋には赤い跡。半袖から伸びる白い腕は手首にアザというブレスレットをはめて。


明らかなる事件性。真っ青になりながらこの世に絶望したように泣きじゃくる響にまた自分を責めた。



『響、謝らないで?もう大丈夫だから』


『涼……りょ、ぅ』


『ごめんね、守ってあげられなくて……ごめん』



強く抱きしめれば、私の背中で彼の拳が握られた。


何度も何度も私の名前を呼んで、私を掻き抱いて。



『やっぱり俺……涼だけでいい』


『……』


『最初っから、涼しかいらなかったのに……俺、本当馬鹿で』


『響……』



譫言のような言葉に涙が溢れて、私こそ響以外守りたいものなどないと思った。


彼に人生を捧げる。好きな部活も辞めたっていい。私の第一優先はいつだって響。


それでいい。それがいい。

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