第37話

「ひび、き……?」


「……」


「……っ」



指同士を編んだ彼の手が私のお尻を下から持ち上げるように抱えた。


驚いて体を揺らすと、さらにグッと体を引き寄せられて……



「痴漢防止。オッサンに触られるよりかマシだろ」


「……」



横目でそう告げる響。左耳にダイレクトに響く声に脳ごと揺らされて色々と爆ぜた。


車窓の景色が中を流れるほど澄んだ瞳。このままでは危険だと心臓が叫んだので咄嗟に目を逸らす。



「はぁ、マジで……電車嫌い」


「そうだね……」



いじけたようにグリグリと私の肩口におでこを擦り付ける彼。173センチもある体をすっぽりと包み込まれると、か弱い女の子にでもなったのではないかと錯覚してしまう。


私を痴漢から救い、現在進行形で守ってくれている響には申し訳ないが、ちょっとだけ痴漢にあって良かったかも……なんて。


本人に言ったらきっとブチギレられてしまうだろう。



「……」


「……」



いつもなら少しでも響を満員電車の窮屈さから救おうと必死に突っ張っている腕は大人しく彼の胸のうちに畳んでいて。


トクントクンと彼の命の証に直接耳を傾け、どちらのものか分からない熱でほのかに汗をかく。


電車が揺れれば彼の体と共に私も揺れて、ガタンと電車が石を踏めば、お尻が受ける圧が強くなる。



……何、考えてるんだろう。私。



敏感な部分に触れられているのは私を守るため。仕方がなくしていることだって分かっているのに、少し指先が動くだけで身震いをしてしまいそうになる。

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