第38話

間違いなく、感覚が鋭くなっている。意識が全てそこに持っていかれているからだ。


電車が大きなカーブに差し掛かった。体が倒れる。スーッと撫でるように肌の上を彼の手が移動する。



「……っ、」



こんなことで反応する自分が恥ずかしい。欲求不満すぎる自分が嫌だ。


私は他とは違う。響のナイトだから、彼のフェロモンに酔ったりしない。酔ってはいけない。


老若男女から好意を寄せられ、性的な目で見られ……彼が沢山怖い目にあったことを知っている。そのせいで他人を信じられなかったのも、ずっと隣で見てきた。



だから、私だけは彼をそういう目で見てはいけないんだ。たとえ見ていたとしても絶対に隠しきらなければ。……響を傷つける。



「……はぁ、っ」


「涼?」



ピッタリくっついていた体を離され、顔を覗き込まれた。珍しく私を気遣うような表情にギュッと心臓が締め付けられる。



「……ごめ、響」


「っ、」


「熱くて……」



火照る顔を全て気温のせいにした。汗ばむ体も心拍音も……全部全部一纏めに気温のせい。



「……、」



私を見つめたまま固まる響。次の瞬間、パッと顔を逸らして私の顔を胸に押さえつける。



「なんつー顔してんだ」



息のような声が微かに空気を揺らした。多分聞かせるつもりのない言葉。


そんなにひどい顔をしているのだろうか。マナーとして最低限施しているメイクが熱で溶けていたとか、それとも顔に汗かきまくってたとか。


これでも一応、中身は乙女だ。恋愛成就を目論んでいなくとも、好きな人の前では清潔でありたい。



「……ブスで悪かったな」


「は?」



八つ当たりしつつゴンと彼の胸に顔を伏せれば、一拍の間の後「ブスじゃねーし」と頭にグリグリと顎を刺された。

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