第33話

電車は響にとって一番リスキーな場所だ。


否が応でも他人と密着し、肌が触れ合っても文句が言えない状況は、当たり前に痴漢被害に繋がる。


背が高いせいで他より頭ひとつ分抜きん出た美しい顔。どんな時でもふわりと醸される魅惑の香り。


彼のフェロモンに酔わされた人々は、老若男女問わずに禁忌に手を染める。



電車に乗り込む瞬間、ぎゅうぎゅうの車内の中に隙間を見つけると、すかさず響の腕を引っ張っていく。



「響、きつくない?」


「……ああ、」



立たせた響を囲うように後ろの壁に手をついて見上げれば、頬に瞼の影を落として目を逸らす響。



「なぁ、今日は逆にしねぇ?」


「逆?何が?」


「だから、俺とお前。守る側と守られる側」


「……は?なんで」


「……」



首を傾げると眼前の眉間に線が入る。呆れ混じりのため息を漏らされたところで、彼の意図は伝わらない。


そうこうしているうちに電車は次の駅へと動き始め、場所を変えるなどという空間の余裕は失われた。


後ろから加わる圧。女性の平均をゆうに超え、なんなら男性の平均身長も超している私の顔の位置はちょうど周囲のおじさんたちと同じ高さだ。


身長が低くてもみくちゃにされる女の子たちも可哀想だけど、この身長はこの身長で首筋におじさんの息がかかるので中々不快だ。


どうせなら響くらい身長の伸びたら良かったのに……なんて、更なる男化を目指して顔を上げると「ん?」と近づいてきた顔。


息がかかるような距離に流石にびっくりして固まる。

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