03.揃いのピアス
第32話
「涼、前歩け」
「え?」
駅に向かう歩道橋で腕を掴まれ、前を歩かされる。後ろからカルガモの子どものようについてくるのは今日も無意識のオーラを放つフェロモン男だ。
出かける前のあれといい、この不可解な行動といい、どういう了見か。
「マジでそのスリット縫いつけろよ、目の前チラチラして腹立つ……」
「まだ言ってるの?」
歩道橋を通過して隣に立った響は未だにスカートを威嚇中。スカートに親でも殺されたんか?とツッコミを入れたくなるほど固執している。
駅に着くと、相変わらず人で溢れかえっている構内。
ゆったり歩いていると響が声をかけられてしまうので、彼の腕を掴んでさっさと目当ての路線まで移動する。
「……っ痛、」
「え、どした?!」
「っち、くそ。今女にぶつかられた」
「ご、ごめん、私がいながら……」
歩みを止めずに響の背後に視線を向ければ、肩を抱えながらキャッキャと騒ぐ女子高生二人組が目に入る。
響に触れたいのは分かるが、当たり屋のようにぶつかって喜ぶのは絶対におかしいと思う。
ジッと睨みつけていると「涼のせいじゃねぇだろ」と頭を掴んで前方に向きを戻される。
隣を見上げればいつものこととでもいうように澄ました顔をしていて、それを見るたびに私は密かに悲しくなるんだ。
知らない人にわざとぶつかられたり、ジロジロ見られたり……そういうのが普通のことだと諦めさせていることが、響のナイトとしてすごく不甲斐ない。
「電車は任せといて」
「いや、今日は……」
やる気十分に辿り着いたホーム。何かを言いかけた響の声は電車の到着音にかき消される。
今日も今日とてぎゅうぎゅうの満員電車。乗車時間は約30分。響のナイトとして一番と言っても過言でないほどの重労働だ。
「行くよ、響」
「……あ、おい涼っ」
響の腕を掴んで魔の巣窟へ足を踏みだした。
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