6話 心からの接客

 深く呼吸をして、自分の頬を二度ぴしゃりと叩いた。彼はこの後、死を覚悟して戦うのだ。私も死を覚悟するような仕事をしなければきっと意味がない。


 まずはホワイトフィッシュの確保だが、これに関しては運よく見つかった。やはり探せば大方の食材はあるのだろう。市販で良く売られるバケットはもちろん、時期外れではずであるレモンは採れたての様な瑞々しさを含んでいた。


 半分に切ったバケットは表面を軽く焼いておき、そこに一本ままの焼いた干物を挟めてレモンの果汁をたっぷり絞った。言われた通りの調理法だが、お世辞にも美味しそうとは思えない見た目だった。 


 珈琲豆は酸味の全くない豆ベースにしつつ、香り付けの豆を2種混ぜることにし、熱が出ないようにゆっくりと挽いた。時間はかかるが、香りが出やすい方法である。

 抽出は湯量を少なめに調節し、ゆっくりと細い湯を挽いた粉に落とす。何百回もしてきたはずのその動作もここまで集中するのは久々で、妙な心地よさを含んでいるようにも感じた。


 出来上がった二つの品をプレートに並べ、男の元へゆっくりと運ぶ。


 「お待たせしました」

 

 男の目の前に料理を差し出すと、男は剣の柄から手を離し、しばらくの間、提供された料理を眺めていた。


 「必要であれば、毒見なども致しますが?」


「いや、いい」 


 そういうと、男はそのサンドイッチを大きな口で頬張り、干物の骨を気にもせず嚙み締め、その後珈琲を勢いよく啜った。


「……美味い」


 ただ一言。浸るような声でそう言ったきり、男は静かに食事を続けた。


 その後、店内には食器が鳴らす甲高い音だけが微かに響くのみだった。


 味に問題は無いだろうか?

 昔からの好物なんだろうか? 

 故郷の味かなにかなのだろうか?

  

 疑問と詮索したい気持ちをぐっとこらえ。ただ静かに新品の食器を拭きながら、男が食事を終わるまで待っていることした。



 


 

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