第四十五話

「──と、いうわけだ」

 次の日にヒイラギから聞いたことを念のため伝えておく。

 無論、先生が試合に出てくることや最後の依頼に関することは除いたが。


「早速本題に入るが君たちは優勝したいかい?」

 この質問に多くの生徒が頷く。

 それはそうだろう。この学園祭で上に行けば順位が上がる可能性があるからね。

 その順位が将来に繋がると言える。

 貴族からしたら箔がつくし、それ以外でも良い職につく可能性が高くなる。

「それなら優勝できると思うかい?」

 ...

 ...

 ...

 ...ま、そうなるか。

 当たり前と言えば当たり前。合ったことのない他人を強いと想定するのは自然だ。ましてや、自分達より一年以上在学している他人ひとがいるのだ。


「正直に言うとしたら、同学年は別として、一個、二個上には勝てないと思ってる。馬鹿正直に戦ったらの話だが。バトルロイヤルなんて特にそう。ただ、上の学年はバトルロイヤルを経験してるから不利なことには変わらないけどね」

 ヒイラギも無茶を出す。

 戦うのは私ではないのに。


「残りの時間で不利を対等なレベルにまでは持っていくから安心しなさいな」

 ただ、対等にするだけでは不安が残る。

 クラスの上位層はこれだけである程度は勝てるだろうけど。

 確実にするためには彼を引き出さないと。

 それは後でいいとして。


「ま、酷な質問をしたね。結局はその日の調子や運でも決まるから今からでも間に合うさ。それじゃあ、授業始めるよ」

 そう話を打ち切り授業を始める。


 順調に進み、何事もなくしっかり終わる。

 生徒が教室から出ていく中、ある生徒に声をかける。

「少しいいかな?フライス君?」

 自己紹介の時にこのクラスのトップの強さと感じたフライスだ。

「嫌です。帰ります」

「そんなこと言わずにさ、ね?」

 引き止めようとする。

「目立ちたくないので話しかけて来ないでください」

 そう言って椅子から立ち上がり帰ろうとする。


 あまり使いたくなかったんだが仕方ない。

「...天使」

 ボソッと言うとピクッと肩が震えるのが分かる。

 当たり、か。


「何のことです?」

 そう返答が返ってくる。

 確定した。


「いや、もう誤魔化さなくてもいいよ。もう分かったから」

 そう言って認めさせようとしたが

「だから何のことですって」

「誤魔化すなら肩を震わさせるべきじゃないし返答するべきでもなかった。疑問の内容も認めてるようなものだしね。

 そう諭して自供を狙うがフライスは無言を貫く。


 教室には私とフライス二人だけ。廊下にはまだ生徒が見えるが。

 その数刻後、

「もういっか」

 と言う声が教室に響く。

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