第四十二話

 side:セルリアス

 先までの感情は封印して今に集中する。

 解説がなくなってからは学園長も考え込んでしまった。

 学園長から見ても先生は異常なのだろうか。

 それとも、天才さんが異常なのだろうか。

 それは時魔術の攻防で完全にわかった。

 先生は魔術を破壊するし、天才さんはブラフを用意して先生を欺くし。

 両方とも自分の最大限を発揮できるように立ち回っていたことが理解できる。

 ただ、その心理戦に先生が負けただけで、天才さんが一枚上手だっただけで。


 白黒になった空間を見ながらそう思う。

 音もなくなった世界を視ながら思う。


 勝敗は決まった。

 時魔術が発動した時点で終わった。

 ここから勝てる術なんてない。私の知る限りでは。

 ただ、先生が何もせずに詠唱をさせるわけがない。...そう信じたい。

 色が褪せ、動かなくなった先生を見つめる。


 いつの間にか手を組み、祈る。

 ─動いて欲しいと言う願いを込めながら


 その願いが通じたのか、瞳が少し揺れたような気がした。





 side:ヒイラギ

 もう解説できる範疇を超えてしまった。

 やはり、ユキはおかしい。

 あの刀技はわかる、あの身体能力もわかる。

 ただ、これは違う。

 納得できない、してはいけない。

 本来、時魔術は発動者の独壇場のはずだ。

 なのに、なぜ魔術の範囲内にいるのに自由に動ける?


 深い深い思考の闇に沈んでいく。

 考え出したらキリがない。

 今の知識では答えは見つかるわけがないだろう。

 僕は魔力や魔術に精通してるわけではないしね。

 ...ただ今の状態で問いに対する答えを求めてみたい。

 ─まず、前提の確認。

 魔力は身体の強化、魔法、魔術に加えその他の小細工に使える。

 時魔術は空間魔術と同じで抽象的なもの。

 抽象的な魔術は自分の魔力で空気中の魔力をその属性の魔力になるよう促すことで事象が発生する。

 魔術の破壊は術式を壊す、もしくは事象の魔力を断ち切ることで成立する。

 時止めの魔術は魔力自体が止まるから発動した時点で対処法はない。

 ─このぐらいだろうか。


 これは僕の考えであり、世界の当たり前だ。

 ただ、ユニークスキルだと動けるのかもしれない、が彼女のユニークスキルは違う。

 ...あぁ、常識が崩れていく。僕の当たり前が...


 ─次は前提から推測。

 術式を壊せなかったから、事象の魔力を絶っているはず。

 ただ、それは時魔術では不可能。

 ならどうやって?



 空間魔術...?

 可能性はある。

 アージニスの時魔術は彼女の空間魔術内でしか発動していない。

 これはこっちとあっちの空間は別だからだろう。

 それをユキの周りで行えば彼女は時魔術の効果を受けない...はず。

 周りに見せずに発動もできるんじゃないか?

 ユキぐらいになると自分の動きに合わせてその空間も動かせるだろう。


 ─推測の結論はこうだ。

 空間魔術によって時魔術の時間停止から逃れていると言う結論を出した。

 どこかに矛盾があるかもしれないが時間停止中に動けているんだ。

 結果が矛盾していると言うことは過程が矛盾しているんだ。

 そう考えて強引に納得する。


 ま、ユキの勝ちかな?





 side:ユキ

 ま、流石に魔法、魔術の対処法ぐらいは用意してないとね。

 と言ってもかなり脳筋なんだけど。

 簡単に言えば魔力で身体を覆っただけ。

 隙間なく自分の魔力が身体を覆えば魔術の影響を受けない。

 四属性はある程度で大丈夫だが、時とか空間はほぼ完全に空気中の魔力が自分に触れないようにしなければならないが。


 これでバレてなかったら攻撃してくる時に先に攻撃したら勝ちかな?

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