第四十一話
side:セルリアス
リズムが変わってからは一方的だった。
ユキ先生が常に攻めている。
そこに技術は多少あるが大半は力による強引な攻撃に見える。
速さが強さと言わんばかりに全てのスピードが上がる。足の速さはもちろん、刀の振る速さ、攻撃から次の攻撃の間も、そしてカウンターからの反撃も。
それを見ていて思う。
何故、あの若さであの身体能力があるのか。
身体能力を上げる魔術を使っているようには見えない。
だから、思う。羨ましいな、と。
だから、考える。私にもあんな身体能力が有れば、もっと人を救えていたのかな、と言うたらればを。
だから、思ってしまう...
先生が戦っていたらもっと被害は少なかったはず、と。
だから、思った。
その力を周りのために使わない先生を悪だと。
感情がよくない方向に向かっていることはわかる。
先生は悪ではないと頭ではわかっている。
でも、それを心が否定してくる。
あぁ、このどうすることもできない感情を吐くことができたらいいのに。
そう考えながら視界が空へ向けた。
side:ユキ
本来ならもう終わっているはず。
何回も彼には避けれない攻撃をした。
それなのに立っている。
息も絶え絶え、剣も振れそうにない、頭も回ってなさそう。なのに反撃をしてくる。
最初は受けることで精一杯だったはずの攻撃を。
しかも、少しずつ狙う場所が的確になっている。
これ以上、続ければ手痛いしっぺ返しをもらうかもしれない。
なら、ここで終わらせてしまおう。
そう思い、先ほどよりも数段速く斬りかかる。
首を狙った一撃。
おそらく彼はまともに反応できないはず。
...なのに、なんで?なんで受け止められている?
...さっきまでと明らかに違う。
目も、立ち姿も、ほとんど全て変わった?
そこまで思考して気づく。剣が迫っていることに。
脳天目掛けた振り下ろし。
──避けれる。
なら、反撃を、...できない。
...終わらせようとしたのに防戦一方になってしまった。
ただ、しっかり見える、体も追いつく。
避けられるし、考えるか。
なぜ、いきなり強くなった?
─ユニークスキル?
─覚醒した?
─力を隠していた?
今考えても意味がない、か。
ただ、気になることがあるとすればさっきよりも避けやすいことだ。
避けやすいと言うよりも先が見えると言う感じか。
...立ち回りが私に似ている。
と言うかほぼ私だ。
私が見せてない技術も真似しているからユニークスキルの可能性が高いね。
コピー系統か?
そんなことを考えているとアージニス君が喋り出す。
「あぁ、やっと理解した。これが今まで一番難しかった。でもこれで俺は負けない。お前の攻撃は当たらない」
実際、このままでは攻撃を当てられないだろう。
技術をこんな一瞬で真似されるのはなぜか癪に触る。
技術を見せて真似されたくない。
なら変えようのないところで差を付けよう。
例えば身体能力や魔力量とかね。
それにこれが彼の切り札なら期待外れだ。
これじゃあ、
「私の下位互換じゃないか。これが君がSランクと呼ばれる所以ならもういいや。...魔術でも使って降参しないようにね?」
魔力を廻す。
より速く、より多く。
身体を強く、そして速く動かせるように。
彼の正面に動き、ただの横切りを放つ。
防ごうと剣を軌道に置いているがそれすらも強引に吹き飛ばす。
吹き飛ばされながらも魔術を放ってくる。
熱かったり、冷たかったり、撫でられたり何かが当たる感覚があった。
これだけで今の私は止められないけど。
相手に近づき、刀を振り下ろそうとした瞬間に転移される。
転移の魔術は転移先にも魔術陣があるから先に移動する。が連続で転移され、空中に逃げられる。
空を跳んで追いかけようとするがまた、転移で逃げられる。
それと同時に魔術が構築されていく。
この空間一体に魔術を刻むように組み立てられていく、時間停止の魔術。
「『我が求むは時の支配。望むは絶対的な支配。絶えず動き続ける時よ、廻り廻る時よ、』」
そんな詠唱が最後の一節に差し掛かろうとした時、魔術を壊す。
ただ詠唱は止まらない。
「『今、我が手に』」
見えない魔術が完成する。
...彼の背中に在ったらしい。
背中からの魔術の発動を表す発光が位置を示している。
それを理解すると同時に景色が白黒になる。
彼が近づいてくるのもわかった。
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