第四十話

 side:ユキ

 ある程度、説明したから攻めようか。

 そう考えながら左肩を狙った突きを弾き、前に詰めて突きを放つ。

 弾かれるがそのまま強引に横に斬る。

 下がる、か。

 それより外に伝えておこうか。


「それを踏まえて攻める側の説明をしようか」



 side:セルリアス

 攻めの説明を待っている間に背後から足音が聞こえる。

「おぉ、よく戦えているね、アージニス君は。とっくに終わってるものだと思ってたけど。いや、ユキが手加減してるのかな?。どう思う、セルリアス君」

 学園長の声だ。入学式に聞いたことのある声だ。

 横に座ってきたので横目に確認すると学園長だった。

 名前はヒイラギと言っていた記憶がある。


「...そうですね。正直なところ私には分かりません。ただ、私達に説明するほどの余裕が先生にはあるようなので先生が勝つと思います」


「そうだね。このままいけばユキが勝つだろう。ただ、彼は天才だ。自他ともに認めるほどにね。天才と言われる所以のユニークスキル。そしてそのユニークスキルを十全に扱える技術。この二つが彼を天才たらしめる。だから、彼の本領が発揮されたら負けるのはユキかも知れないね」

 そう彼は言う。続けて

「でも、この仮説は彼女が手を抜いているから成り立つ。おそらく彼女が少しでも本気を出せば終わるだろうね」

 と言う。


 魔術と解説のことだろうか。

 そう思い、疑問を投げ掛ける。

 その問いに対しての答えはこうだった。

「いや、そのレベルじゃない。もっと根本的な部分だと思うんだよね。なんて言うんだろ。...親が自分の子と腕相撲をした時、本能的か意識的かわからないけど手加減して勝つような感じかな。その上にさらに手加減をしているようだけど」

 そこで私に向けられていた目が戦っている方に行く。

「所詮天才、化け物には敵わないよ」

 その顔を横目で見ようとするがわからなかった。


「けど、ユキの手加減がしているなら僕にだって説明はできる。聞きたい?」

 先生のと合わせて聞こう。

「はい、もちろんです」

「ならまずは今、ユキがしていることの説明からしようか。今繰り返しているのはカウンターからの突き、そしてその後の横斬り。これだけ。かなりパターン化されているよね。でも、彼が気づくことはないだろうね。だって、あと一歩だから。後少し速かったら、少しでもリズムを崩せたら、こんな考えで彼は小手先で誤魔化そうとしているだろうね。つまり、『戦いの自分の力は最大限に、相手の力は最小限に、これが基本。それでこれは攻めの時の方がやりやすい』...可能性があるように見せてるんだよ」

 と学園長は先生の声に阻まれながらも説明をする。


『今は彼の視野を狭くするように私は動いている。当たりそうで当たらない動きをね。そして考える隙を与えないように同じ攻撃を繰り返している。そうしたら相手も同じような攻撃を繰り返してれている。上に行くほど通用しないけどね。ちなみに彼みたいな動きをするは冒険者にも多いね。特に魔物と戦う人たちによく見られる』


 パターン化すると相手もパターン化するのか。

 有り得なくはないだろうけどSランク相手には無理では?

 本来パターン化なんて起こらないはず。

 私たちが戦った時だってパターン化はしなかった。人数が多い時も、一対一の時も。


『攻撃を繰り返すなんて起こらない。でも、考えてみて。後、一センチ高く跳べたら取れるもののために三キロ離れた椅子を取りに行くかい?椅子を取りに行っている間になくなるかもしれないのに?』

 私の考えを見透かしたかのように先生は例を挙げてくる。

 ただ、あまりピンとこないが話は進む。

『この一センチが十センチだったら椅子取りに行くかもしれない。一ミリなら取られるかもしれない。三キロだって近すぎたらダメだし、遠すぎたら自分が離した椅子以外を持ってくるかもしれない。ただ、絶妙な距離なら相手の攻撃は定型化される。強さがある程度だったらね』


「ユキの説明は難しいね。つまり、彼のカウンターとしての攻撃が突きでしょ?その突きを最適解と思わせると言うことだよ。それでも当たらないなら別の方法を試すと思うけどね」

 わからないけどわかった気がする。


『決めに行く時は一瞬で』

 この言葉の後、先生のリズムが変わる。

 そして攻め方が変わる。




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