第三十九話

「それじゃあ、君達はここで観戦して。大丈夫、空間魔術で攻撃は行かないようにするから」

 と言って生徒達から目を離し、アージニスに目を向ける。

「待ってもらってすまないね。後、もう少し待ってほしい」

「構わん」

 この言葉を聞いた後、時と空間の複合魔術を使う。

 これで私達と生徒達は空間がズレた。

 そして、この空間は外側に比べ時が遅く進む。

「凄いな、これは。かなり高度だ」

 彼から感嘆の声が漏れる。


「ありがとう。それじゃあ、早速やろうか。この銀貨が地面に落ちたら開始だ」

 木刀を片手にコイントスの構えをとる。

「あぁ」

 彼も木剣を構える。

 構えたのを確認してコインを空中に放り出す。

「さぁ、おいで。軽く揉んであげる。君?」

 刹那、コインが地面に落ちる。


「言われなくともそのつもりだッ!」

 その声と同時に攻めてくるのだった。




 side:セルリアス

 ...すごい剣戟。ゆっくり動いているからかろうじて視える。

 無駄な動きがないことに。

 一つ一つが丁寧で着実に相手を追い詰めるための攻撃が打たれる。

 それを丁寧に対処する。

 互いが互いを探るように。


 どちらが有利なのかはわからない。が『天才』さんが攻めていることはわかる。

 ただ、どちらも全力ではないのだろう。

 だって魔法や魔術を使ってないのだから。

 ユキ先生は言うに及ばず、ユキ先生の作った空間魔術について理解したような反応をしていた『天才』さんも使えるはず。

 そんなことを考えていると、


『聞こえるかー?』

 と言う声がこの観戦の場に広がる。


『よし、聞こえているね。これは一方的なものだから反応はできないよ。それじゃあ、解説をしていこうか』


 これは魔術?

 音声だけを転移させている?

 あの空間内の時は遅くなっているのにこの声は変わらない?

 口の動きと言葉が合っていない?

 転送のズレ?


 疑問が疑問を呼ぶ。

 ただ、そんな疑問の答えを考える隙なんてなく、解説は進む。


『今のは私から見て右側への動きを抑える突きだ。と言って左に動くと、相手の次に繋がる』


 ただ先生は突きからの動きに対応し、軽々受け止める。


『互角の相手なら受け止めることすらままならない。だから極端に後ろに下がって待ち構えるか、受け流して前に出るか、かな』


 ユキ先生と天才さんの実力の差をはっきり理解できた。

 先生に余裕があることが見なくともわかる。

 わざと攻められているように見える。

 しっかり見えるから余計にそう見える。


『でも全て相手にバレていたら意味がない。動作は最小限に。例えば今の彼の突きの後の横斬り。顔は動いてないけど目が振る方に向いている』


 言われないとわからない微弱な目の動き。動いたからと言っても横に斬るとは私は確信できない。


『まず、重要なのは優先順位をつけること。今、私に剣が届く最短距離が横斬り。だから私は横斬りの対処を最優先として刀を攻撃先に置いた』


 一週間の内に言われていたことだ。

 言葉で理解はしていたが実際に見ると深く理解できる。でもユキ先生よりは浅いのかも知れない。

 ただ、納得する。優先順位をつける重要性に。


『それだけ。ただ、一番重要なのは流れを掴むこと。優先順位をつけるのも流れを掴むまでの道のりを明確にするため』


 先生は淡々と攻撃を避けながら話す。

 それは私から見たら全てが最適であるように見える。


『ただ、どれだけ優先順位をつけて敵の攻撃に当たらないようにしてるだけじゃ流れは掴めない。だから自分から攻める必要がある。でも攻めさせられているは相手に流れを掴まれているからね』


『それを踏まえて攻める側の説明をしようか』


 その直後、と言うわけではないが先生は攻めに転じた。

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