第三十七話

 本部冒険者ギルドのギルド長室前まで歩いてきた。

「入るよー」

 と言いながら扉を開ける。

「はーい」

「で、何の用」

「それはね、教師生活が今のところどうなのか聞きたくてね」

 真面目そうな雰囲気は纏っていない。


「二日目でそれ聞く?まだ分からないね」

「それもそっか。それにしても言葉に容赦がなくなったね」

「幼児退行した辺りから敬う気が失せたからね」

「アッハー、それはすまないことをしたね」

 思い出したくないのか目が虚ろな状態で謝ってくる。

「で、本題は何?」

「エッ?!大切なことがないと呼んだらいけないの?友達なのに?」

「別にそういう訳じゃないけど。でもそれならここに呼ぶ必要はないはずだけど?」

「...一応あると言えばあるんだけど。僕、というか冒険者ギルドのトップからすると頭の痛い話でね。『天才』君がユキと戦いたいらしくてー。できれば断って欲しいなって思うんだよね」

「...やるとしても私に利がないといけないけどね。それとやるなら生徒達に見てもらった方がいいかな。授業の一環としてね」

「いい案だと思うけどなぁ。『天才』君、あっアージニス君って言うんだけどね。彼が生徒に力を見せることを良しとしたら良いんだけど、提案してみる」

 と言って書類の整理を始める。


 少し待っていると扉が開かれる。

 バンという大きい音を立てながら。

「俺は問題ない。それよりも俺は早く戦いたい」

 少年の声が届く。ただその声は落ち着いている。

 振り向くとそこには想像通りの少年がいた。

「アージニス、ノックをしろと何度言えば分かる。それとさっき話していた内容がなぜ分かる」

 気づいてなかったのか。

「俺は天才だ。そこにいなくても俺は分かる」

 その発言の後、私は本棚に向かい、手に取ったことのあるマンガをヒイラギに渡す。

「...?これがどうした?」

「これ、魔術が刻まれている。それも結構バレないように。音を転移させる魔術かな?」

 転移の魔術に音だけを限定にさせた上、必要なところだけを盗み聴くために室内に二人いることという条件も付けている。

 難度が高いことをよくやるね。それも安全機構を外して。


「ッ!...俺の大切なマンガに何してやがる」

 ヒイラギはアージニスに向き直り、声を荒げて怒りを露わにする。

「お前、そんなに大切ならしっかり見ておけ。そんなに大切なら貸さなかったらよかった。それに大切なものは捨てない。なら捨てないものに術式を刻む。当たり前」

 淡々とした口調で言葉を吐く。

「貸したと言ってもこの部屋の外に持ち出すのは禁止しただろうが。」

 ヒイラギは術式を刻む隙がないと思っているのか。

「うん。だからこの部屋で刻んだ。バレないようにする、朝飯前」

「ッチ、ア゛ァ、だからSランクは嫌いなんだ」

 ヒイラギは諦めたのか話を区切るような発言をする。


「それで戦えるのか?」

「それはユキに聞いてくれ。ギルド長としての僕はもう関与しない」

「それでどうなんだ」

 そう私に問うてくる。


 さて、どうしようか。

 まず、受けることはいいんだが、私にメリットがない。あったとしてもあまりにも少ない。

 なら、受けない、と言うわけにもいかない。こういうタイプは受けなかったら粘着してくるだろう。

 そして、私が勝ったとしても再戦を望むだろう。

 つまりだ。

「戦うことは良いとして、最低一週間後。それで私が勝ったら授業の助手でもしてもらおうかな」

「それで、あんたが勝った時の俺が助手をする期間は?」

「無期限」

「はぁ?」

「私はこの条件しか認めないからねぇ」

 片手をヒラヒラさせて呟く。

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