第三十二話

 部屋から出て向かう先は闘技場のようなところらしい。

 その向かう途中で柊が問いかけてきた。

「こっちからの質問なんだけどユキ、ちゃん?」

「呼び捨てでいい」

「ありがとう。それでユキのステータスを教えてほしいんだが」

 そう聞いてくる。


 ふむ、個人情報にも近いステータスについて聞いてくるか。

 私にはあんまり関係ないけど。

「Sランクに上がれたらね」

「そっかぁ、なら楽しみにしておく。終わったらさっきの部屋に来てくれ。...さぁ、こっから先は試験だ、と言ってもユキなら簡単に受かりそうだけどね」

 と言いながら扉を開けた。

「君がSランクになることを楽しみに待っている。さ、頑張っておいで」

 柊が背中を押してくる。


 押されて入った闘技場はアウグルのとこの闘技場より圧倒的に広い。

 そして人も多い。

 そんな闘技場の中心に一人立っている。

 老人の男だ。

 背筋が伸びていて強者の風貌がある。

「君か。Sランク試験を受けるのは。そちの名は?」

「ユキ」

「ユキと申すか。儂の名はサキュール・ハキム。Sランク四位の賢者じゃ。さっそく試験の内容を説明しようかの。内容は動かずに魔法と魔術で儂と戦うこと、ただそれだけじゃ。どうじゃ、簡単じゃろ?」

「そうですね」

「それじゃあ、始めるとするかの」

 一拍置いた後

「よーい、ドンじゃ」

 と言う声で始まる。


 が何もない時間が続く。

「どうした?攻めてこんのか?」

「では、遠慮なく」

 追尾式で拳大の大きさの火球を十個ほど撃つ。


 ただ、全て当たる前に消えてしまう。

「へぇー」

「なんじゃ、原理でも分かったのか?」

「んー、分からないや」

「...嘘じゃな。がそう言っとる」

 バレるか...。

 そんなにポーカーフェイスできてないかな。


 顔をほぐしながら同じ魔術を百ほど飛ばす。

 そして、その中に魔法を一つ紛らせておく。

 ...また、全て消えてしまう。魔法も含めて。

 不可能に近いね。この速度だと。

 コンマ数秒で消せるなんてありえない。


 魔術には必ず綻びがある。

 だからそこを突けば術は消える。

 基本的には魔力で突くことで消せる。

 だが、試行回数が少なすぎる。

 あの爺さんは魔力を糸のようにして突いて消しているが常に最適解を突いている。

 魔術一つ一つに綻びの位置は違うのに。

 魔法はそれより多い魔力か対属性を使えば消える。

 どんな魔法でも相応の魔力量を使えば。

 おそらくこれらを使ったはず。


 一回綻びが出ないように作るか。

「待ちはせぬぞ」

 さっきまで律儀に待ってくれていたのに。

 ま、当たり前か。


 四属性の魔術、魔法が飛んでくる。

 数えるのが面倒なほど宙に浮いている。

 それを魔力を周囲に張ることで防御をする。

 量による制圧を図ろうとしているがそうは問屋が卸さない。

 私もそれに対抗する。

 爺さんも魔力防御で耐えているので必然的に千日手になる。

 おそらくこのまま行けば勝てるだろう。

 ただ、何があるか分からない。

 ここで仕掛けて勝ちに行くべきだね。

 それに今は殺し合いじゃない。

 泥沼化は避けるべきだ。

 なら、綻びのない魔術を今使おう。

 綻びのない火魔術の基準に周りを火魔術で覆う。

 その火は今の撃ち合いの中で一番の大きさを誇る。

 ただ、それすら直撃せず、消える。


 ...は?

 なんで内部の火も消える?

 綻びはないはず、もしくは分からないはず。

 なら、その綻びを作った?

 否。

 外側だけ壊した?

 否。

 耐え切った?

 否。


 ...ユニークスキル?なら、どんな?

 ユニークによっては前三つもあり得る。

 予知、時間停止、消去系、魔力系...。

 上げたらキリがないな。

 ただ、サポート系の可能性の方が高い。

 それに使っていないかもしれない。


「これで終わりじゃ」

「大人しくして、考えているから」

 圧倒的なまでの魔力量で魔法を消し去り、魔術は周囲を自身の魔力で満たすことで寄せ付けさせない


 さて、ここからどうするか。

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