第三十一話

「…中に入ってくれ」


「失礼します」

 と言って中に入る。

 室内は整理整頓がされていて棚には本がぎっしり詰まってある。

 ギルド長は黒髪黒目の中性的な顔立ちだ。

「やぁやぁ、よく来てくれたね。今回来てもらったのは他でもない」

 ただ、その声は男だ。

「Sランクになってもらうためだ」

「そうですか」

「反応が薄いなぁ」

 やれやれと言いそうに首を振る。


「ま、いいや。そういえば、僕の棚を見ていたね。なんか興味を惹かれたものはあったかい?」

 と言われたので棚を眺め、惹かれたものを手に取る。

「これですかね」

 マンガを手に取る。

「目が高いね。その本はマンガと言って絵が主体で物語が進んでいくんだ。面白いだろ?」

「そうですね」

 と言ってペラペラ捲る。

「もう少しで試験官が来てくれるから試験は彼から聞いてくれ。それまで雑談をしようか。何か質問はあるかい?」

 この言葉を聞いてマンガを元に戻し、彼に向く。

「貴方の名前は何ですか?」

「そうか、忘れてた、忘れてた。僕の名前は柊マイモト。ヒイラギか本部ギルド長と呼んでくれ」


「分かりました。それではあと二つ。まず、出身国は何処ですか?その名前はあまり聞いたことがないので」

「うーん、そうだねぇ。遠い遠い東の方の小さな島国、かな?」

「...そうですか。では、最後にヒイラギさんは転生者?」

 転生者という言葉を聞くとヒイラギは直前まで浮かべていた笑みを消し、一瞬真顔になるが、また笑みを浮かべる。

 その笑みは先ほどより深い。


「どうしてそう思う?」

「それは認めるということで?」

「さあ、それはどうだろう」

「まぁいいでしょう。それより先程の問いに対しての答えましょう。まず、そちら黒髪黒目。それはこの世界じゃ珍しすぎる。いないと言っても過言ではないほどに。次に漫画。本来なら漫画ではなく絵本と言うはず。絵が主になるならさ。それなのにあっちの世界で言われている言葉にした。これは冒険談に近く、浪漫ではないのに」

「...ほうほう」

「他にもあります。東には島国がない事や。ここだけが共和国である事とか。あと名前の柊という植物は存在しない。とかね」

 そう思った根拠を語る。

「なるほど、なるほど。それで転生者だからなんだというんだ?」

「?何もないけど。強いて言うならいつ頃、こっち来て、何年生きたか知りたいだけ」

「なるほどねぇ。ま、いいか。今僕は五十年ほどここで生きて、こっちに来たのは二千年だよ。これで満足かい?」

「えぇ、十分ですよ」


 なるほど、だいたい三十年周期か?

 それであっちとこっちでは時間の進み方に差がある?

 それじゃあ、天界の時の進みはどうなっている?

 私はあそこで千年以上いたはず。

 それなのに五十年しか経ってない。

 ただ、止まっている訳ではないはず。

 あんな莫大な魔力を維持できるわけがない。


 ...あぁ、そうか。私が天界にいた時間がここの二十年ってことか。


 いやー、謎が深まるばかりだ。

 あそこの空間をリアルに再現できたら何でも出来るようになるはず。

 それくらいあの空間は完成されている。

 ただ、作ろうとすればするほど再現が遠のいていく。

 やはり、時空間は必須だし、大量の魔力も必要、それに生命魔法も必要。それもどんな怪我も即時修復に加え、失った血の補充も。後、図書館までの移動方法は?光学迷彩による誤認?それとも空間操作による連結?それともそれとも、ただ単に転移し

「自分の世界に入ってるとこ悪いがもうそろだ。後十分ってところか?準備をし始めた方がいい」

 ているだけ?

 ま、また考えるか。

「分かった。それじゃあ、最後の質問。転生する時にいたあのアマ様がいる空間についてどう思った?」

「アマサマ?...あの女神さんね。ちょっと待ってね。.....始めは死後の世界だと思って、それで、転生の話されてからは次元の狭間だと思ったよ。あっちとこっちとのね。他にも女神さんが超能力で作った空間とも思ったさ。後、僕に対して敬語はいらないよ。転生者同士仲良くいこう」

 と言いながら握手を求めてくる。

 それを返しながら

「分かった。よろしく頼むよ」

 と答えておく。


「こちらこそ。あ、お願いだから裏切らないでよ。唯一の転生者友達なんだからさ」

 ふふっと笑いながら話す。

「そっちもね。背信行為なんかされたら怒りのあまりギルドを壊してしまうかも」

「ふふっ、恐ろしいねぇ。さ、昇格テストの時間だ。やっと彼も来たみたいだし。行こう」

 と言って立ち上がり、この部屋から出る。

 それについて行き、私も出る。

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