第三十話

 魔物の侵攻から数日が経った。

 この数日間に様々なことが起きた。

 まず、Aランクに上がれた。

 その上、金もある程度入ってきた。

 そして、私を襲ってきた奴らが大火傷を負って帰ってきた。

 魔術を使える魔物に出会ったらしい。

 いやーカワイソウダネェー。


 たまたま、奴らが魔物討伐の依頼を受けて、たまたま、その魔物が魔術が使えて、逃げようとした所に設置型の魔術があるなんて本当に、

 かわいそうだなー。


 ま、そんな事はどうでもいいけど。

 ちなみに私は今、ギルド長室前にいる。

 呼ばれてしまったからね。

 呼ばれるようなことしたかな。


 ノックを三回して入室の指示を待つ。

「入れ」

「失礼します」

 と言って入室する。

「まぁ座ってくれや」

 近くにある椅子に座る。


「早速本題に入ろうか。今回来てもらったのはこれを渡すためだ」

 と言って封筒を差し出してくる。

 右下には私の名前が書かれている。

「これは?」

 光で透かして見ようとするが見えない。

 しっかりしているようだ。

「本部からの手紙だ。開けてみな」

 と言われたので風魔術で封筒の上部を切る。

 中には一枚の紙と紋章が入っていた。

 紙の内容はSランクの試験をするから本部ギルドに来いという物だ。

「魔術は隠さないんだな。んで、本ギルド長に会いにいかないといけないんだろう?」

 内容がわかっているような口振りだ。

「そうですね」

「なら、その紋章を本ギルドの受付に渡したら良い」

 と説明をしてくれる。

「これで話は終わりだ。なんか質問はあるか?」

「今から行きたいので、本ギルドがある所と現在地を教えてください」

「あい分かった。少し待ってな」

 と言ってギルド長は棚の方に移動する。

 その間に紙と紋章をアイテムボックスに入れておく。


 そして、棚から一枚の地図を取り出す。

 地図を机に広げてから

「今いるのはここら辺だ」

 大陸の南東部を指す。

「そんで、ここがギルド本部だ」

 と言って指していた所を上の方に変える。

 本ギルドは今いる国、サウスゥイート王国ではなく、フリーバッティ共和国のようだ。

「転移するにしても国境の関所はしっかり通れよ」

「..分かりました。では、退出させていただきます」

「そうか、まぁ頑張れよ」

 ギルド長室から出る。


 なんで転移しようとしたことがわかった?

 表情?心?何を読んだ?

 それに転移を使える事を知っている...?

 ユニークスキル?いや、結界系のはず。

 なら心を読める結界?

 ...違う。魔力は無かった。


 おそらく空間魔術を使えるのをあのSランクから聞いたのだろう。

 もしくはアイテムボックスを使ったのを見たのだろう。

 そこから転移は予想できるだろう。

 あのタイミングで言ってくるのは何故。

 忠告?過去に同じことをした奴がいるから?

 私が直接行くバカに見えたから?

 ...分からないな。ただ、ポーカーフェイスはしっかりしておくべきか。



 門を出て、森の方へ行く。

 誰にも見られないところまで行き、転移の準備をする。

 ...北はどこだ?

 地球と同じだったらこっちのはず。


 空飛んで確認したら良いや。

 そのまま空飛んで行くのも良いかも。

 国境飛び越える心配もないし。

 ...うん、これで行こう。


 魔力で体を覆い、風魔術で空を飛ぶ。

 周りを見ても何もない高さまで飛ぶ。

 そして、新たな風魔術で横への推力を得る。

 スピードが出て気持ち良い風を受けながら進む。

 魔力で覆わなければ決して気持ち良いとは言えないだろう。

 そんな風を感じながら進んでいく。


 数時間ほど空を飛ぶと関所が見えてきた。

 その間にたくさんの街を見た。

 その街一つ一つに個性があって面白い。

 それはさておき、下に降りようか。

 道を確認して森の方に降りる。

 そして、森から道に出るとそのまま道のりに従って進んでいく。


 幸い、歩いている時に問題には出くわさなかった。

 ただ、思いの外、関所に人がいて国境を跨ぐのに時間がかかってしまった。

 国境の壁はしっかりしていたよ。

 それはもう本当に不法入国は許さないのが目に見えてわかったね。


 フリーバッティ共和国に入って少し歩いてからは建物がたくさん目に映る。

 サウスゥイート王国とは違い砦のようなものは見当たらない。

 国自体が街のように見える。

 露店の数もかなり多い。

 関守の言っていた言葉を思い出す。

「流石は冒険者の国」

 いつの間にか、そう呟いていた。

 見たら分かる自由な国だ。

 住宅や売店、鍛冶屋がごちゃごちゃしている。

 アウグルの街のようにしっかり分かれているわけではない。

 ただ、ある程度の秩序は保たれている。

 そんな街道を歩く。


「肉串を二本いただきたい」

「はいよ、串二本ね。銅貨三枚だ」

「銀貨一枚だ」

「銅貨七枚の返しだ。まいどあり」

「どうも」

 店主が二本の肉串を受け取り、タレが指にかからないようにしながら一つ齧る。

 ...食べ物は嗜好品として本当にいいね。

 本当に美味しい。

 一本はアイテムボックスに入れ、もう一本は食べる。

 歩きながら食べていると大きな建物が目に入る。

 看板には冒険者ギルドの文字が刻まれている。

 中に入って受付に紋章と紙を渡す。

「分かりました。ではこちらへ」

 と誘導されるのでついていく。

 二階に上がり、ある一つの扉の前で受付の人が立ち止まり、

「ユキ様をお連れしました」

 と中の人物に話す。

 すると、中から

「ありがとう。下がってくれ」

 と言う声が聞こえてくる。

 受付の人はその言葉を聞いて戻っていく。


「それではユキ君、中に入ってくれ」

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