第19話

あたしの名前を何度も何度も耳元でささやきながら、キスをして、花が咲いたように微笑む彼に、あたしは純粋に心を奪われた。



あたしを優しく抱くのは、たぶんあたしが処女だと知ったからとか、そんな彼の少しばかし残った良心からなのだろうけど、あたしにはそれで十分だった。




でも、そんなことしないでほしかった。




無理やり乱暴にしてくれれば、こんな人好きになんてならなかった。




最低なままでいてくれれば、こんなに苦しい思いしなくてよかった。




あんなこと言わないでくれれば、心から嫌えた。







「沙桐、お前本当にかわいいね。俺のそばでずっと俺にだけ可愛いところみせて?もしも、俺以外にそんなことしたら、俺なにするかわからないよ」






「沙桐、好きだよ。お前は、本当にかわいい」








好きだなんて、言わないでよ。




あたしの好きと神代くんの好きは違うでしょ?






神代くんがあたしへ抱いてる好意は、今までとは違うタイプの女だったからってことでしょ?






あたしの好きは違うよ。





神代くん、あたしは神代くんが思ってるよりも単純なんだよ。




だから、こんな最低なことしてるあなたのことがあたしは、どうしようもないくらい好き。






でも、あたしがこの先の関係を望めば、もう、あたしと神代くんの間には何もなくなっちゃうから、言えない。








「あたしは、嫌い……っ」






だからあたしは、嘘をついた。

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