第2話

「あっちの部屋使ってくれる?」


荷物をもって廊下を歩いていく青年。


まさか姫乃ちゃんが男装女子だったとは。


だがあの見た目なら間違いも起きないかもしれない。


どう見ても執事喫茶のイケメン。


『お嬢様お帰りなさいませ』とか言いそう。


肌は白くまつ毛長く瞳大きい。切れ長の目とかきりりとした印象。凛々しすぎる。


こんだけかっこいいならハーレム余裕だろう。


それに比べて俺のブサメン加減よ。


神様の不公平感半端ない。


「大きい荷物は配送でくるんで……って、なんでガン見してるんすか」


「いや、姫乃ちゃん、イケメンだなって……」


「マジすか。よく言われますけど、お兄さんもしかしてそっち系っすか?」


「いえ、全然ノンケです」


「一瞬焦ったじゃないっすか。びっくりしたっすよ」


爽やかに笑う女子高生。


爽やかスマイル。


圧倒的イケメンオーラ。


こんなキラキラしい男装女子とこれから毎日暮らさなきゃならないとかなんてこれなんてBLゲー? いや待て違う。一瞬騙されかけたけどこれ安心できる要素じゃなくね? ノンケって普通って事ですよ?


無理だ。息苦しい。窒息しそう。29年生きてきてこんな気持ち初めてだよ。


やはりこの話は断ろう。今からでも断ってみよう。いくら会長のアレでもこれは想定外だわ。


だって最初、【甥】だって言ったじゃん。転校の関係で面倒見てって話だったじゃん。


いや通う学校名聞いて、一応保護者としてどんな学校かなってググってみて、出てきたの女子高で。最初は同名の別学校かと思ったんだよね。きっと俺の検索スキルが低いからだって。あんまり詳しく調べてる時間も無かったし、っていうのも俺ってば脳内まで未来の仕事に急き立てられる仕事を家に持ち帰っちゃう系男子だからその時になればわかることに時間使うより着実な仕事をするための明日の段取りを組む方が優先すべきだろうみたいな。


でもあの時みた女子高は本当だったんだ。同姓同名的勘違いなんかじゃなかったんだ。


それもこれもすべて先入観のせい。


甥が女子高に通うっておかしくね。


それ、姪じゃん。ちんちんがないやつじゃん。


でも、確かに来たのは【おとこ】なのかもしんない。あのイケメンパワー。


見方によっては、並の男より男だと、思える。そこはそう言われれば、そうなのかな、と、思わなくはない。


でもさ。ちんちんがなければそのパワーも意味をなさないんじゃないかって思うんだ、この状況に限定するなら。一人暮らしの男の家に下宿するという問題提起に対して、何ら有効な答えを導き出してはいないのではなかろうかって。


だからこれはもうすぐにでも断るべき案件じゃないかな。今そんな気がしてる。



「あ、そうだえなりさん」


「え、あ、はい、なんでしょう」


「俺の事、預かってくれてありがとうございました。俺、兄貴ができてうれしいです」


「え、あ、……そうなの?」


「はい。兄弟とか憧れだったんで」


「あ、そう、なんだ……」


「はい! ご迷惑をおかけするかもしれませんが、これからよろしくお願いします!」


「あ、……うん。よろしくね」



はぁ。


どうしよう。


いい子。


いい奴。


寄せられる信頼。そこに載っているのは人間としての憧憬。男とか女と子ではない。


そんなものの外側に――超越した場所に、彼はいた。


くっそ。それに比べて俺は。なんて悟性の低い。俺のほうが年上なのに。


断りづらくなっちゃった。

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クンクンされてるっ【んお”お”お”お”!】 にーりあ @UnfoldVillageEnterprise

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