第34話

ラーメンを食べたあとは彼女にタオルと着替えを持たせ、何かを言われる前に風呂場へと追いやった。幸い、変に意識されることなく僕もホッとする。いや、そんなふうに安堵すること自体本意ではないのだが、しかし、見た目だけで言えばれっきとした男と女だ。かすかに聞こえてくるシャワーの音には耳を傾けないように意識を反らし、ゆっくりと歩み寄ってきた小夜を抱き上げた。




「薄情なやつめ」




言葉とは裏腹に小夜の顎を撫でてやる。ゴロゴロと気持ちよさそうに顎を反らす姿はすっかり蕩けきっており、彼女を追いかけようとしたときの野生は微塵も感感じられない。さっきは驚きのあまり立ち尽くすことしか出来なかったが、今思えば嬉しくもあった。


寝食を共にするようになってからもどこか遠慮していた小夜が見せた唯一の我儘だったのだ。本当の意味で距離を縮められたような気がして、嫌な気はしなかった。


だから初めての我儘を汲んであげようと、彼女のことも受け入れてしまったのかもしれない。


やがてシャワーの水音が止む。僕は抱いた小夜を下ろし、代わりに着替えとタオルを手に取った。風呂が終われば寝る場所をどうにかしなければならない。僕の都合など考えなしに転がり込んできた彼女だったが、不思議と今夜は深い夢を見られそうな気がした。

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