第32話
無意識に驚きが漏れた。ラーメンを食べたことがないなんてどこぞのお嬢様だ。いや、そもそも高校生にもなって、正しい箸の持ち方も知らないってどういうことだ。お嬢様はナイフとフォークですべての食事を賄うとでもいうのだろうか。じゃあ、和食のときは?和食のときは何を使う…?
いや、そうではない。そういう問題ではない。驚きを隠すことなく閉口してしてしまった僕に何を思ったのか、彼女は箸を握り締めたままラーメンを掬うことを止めてしまっていた。冷めた双眸にラーメンが完成したときの期待を孕んだ表情が重なり、箸を握る手がわずかに震えていることに気づく。
――…あぁ。
僕は失敗した、と、柄にもなく後悔してしまった。
「ちょっと待ってて」
そう言って、僕はおもむろに席を立った。いきなり立ち上がったせいか、彼女も不思議そうに顔を持ち上げる。僕はキッチンから小さめの器とフォークを持ってくると、自分の箸を使ってラーメンを取り分けた。麺が乾かないように少量のスープを加え、彼女の前に差し出す。これなら熱さを気にせず食べられるだろう。
彼女は取り分けられたラーメンを前にぱちりと瞬く。
「冷ましたから、好きに食べていいよ」
だけど彼女の手は動かない。箸を握り締めたまま押し黙っている。そんな彼女に苦笑を浮かべた僕は「貸して」と、彼女の指から箸を抜いた。なぜここまでしなきゃならないのか――…例え自分にその気がなかったとしても、無知に呆れてしまった態度を悔いて、箸の代わりにフォークを握らせた。
そして僕も同じように箸を置いてフォークを握る。彼女の目が、分かりやすく大きくなった。
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