第31話
「ごめん、ちょっとだけ離れてくれる?お湯が飛ぶと危ないから」
コンロから鍋を浮かし、用意された器にラーメンを移し分ける。大きく膨れ上がった湯気に視界が霞むと、醤油の芳醇な匂いに食欲を誘われた。腹が減っているのは彼女も一緒だったのか、冷めた眼差しの中に小さな期待が見え隠れする。非常に分かりにくいが、欲に忠実な一面は彼女の大人びた顔立ちを少しだけ幼く見せた。
「ほら、座って。伸びないうちに食べよう」
熱々の器をテーブルまで運ぶ。そんな僕の行動を目で追っていた彼女は「箸、持ってきます」と、僕の後ろを追いかけてきた。テーブルに向かい合うようにして座り、いただきますと手を合わせる。ラーメンと僕を交互に見ていた彼女もやがて「いただきます…」と両手を合わせ、箸を握った。
しかし、ラーメンを掬おうとする彼女に小さな違和感。箸を握る手はまさにジャンケンをするときのようなグーを作り、熱々の湯気が顔にかかるのも構わずに口へ運ぼうとしている。
「え、ちょ、待って、待って!冷まさないとさすがに熱いよ!?」
「…さます?」
「そう。フーフーッて、息を吹きかけて冷ますの。って、もしかしてラーメン食べたことないって言わないよね…?箸の持ち方は?」
「…らーめん、食べたことない。箸も、知らない」
「まじか…」
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