第30話

普段、料理などしないのだろうか。スープの素を入れる手つきはどこかたどたどしい。まぁ、服装を見るに女子高生だ。このくらいの子どもは親に頼りきりでもおかしくはない。煮立ったラーメンをかき混ぜながら、慎重にスープの素を入れようとする彼女をこっそり見やる。伏せられた睫毛が凛とした影を落とし、真剣な横顔に栗色の髪がふわりとかかる。風呂に入れてやらなかったわりに、女性らしい柔らかな匂いがした。


スンと肺を膨らませた僕を責めるように、手元ではブクブクと煮立った鍋が吹き零れそうになっていた。大きく膨らんだ泡を見た彼女が「あ」と声を上げる。一瞬で意識を引き戻された僕は慌ててコンロのつまみを捻った。




「…やばい、危なかった」




膨れ上がった泡がギリギリのところで萎んでいく。熱湯の中では少しだけ太くなったラーメンがゆらりと踊っていた。


危機一髪だったことにホッと肩を下ろすと、彼女も物珍しい目で鍋の中身を見ている。僕はそんな彼女の横顔を尻目にもう一度息を吐いた。やばい。危なかった。それが吹き零れそうだったラーメンに向けての言葉だったのか、考えるのもいけない気がした。


いくら大人びた顔をしているとはいえ、うら若い女子高生に抱いていい感想ではない。未成年ということを差し引いても、女子高生など射程範囲外だ。

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