第27話

「小夜」




何度タメ息を吐いたか分からない。諦めに背中を押された僕は廊下へと踵を返す。リビングから小夜の名前を呼んで顔を出せば、小夜を宥めるようにしゃがみ込んだ彼女がハッと顔を持ち上げた。


僕を映す双眸はやはり戸惑っていて。人間以外には思いのほか感情を見せるのかもしれないな、と、彼女のコミュニケーション能力に対して早々に諦めを抱く。




「君ももういいよ。そこじゃ他の住人に聞こえるかもしれないから、小夜のことこっちに連れてきて」




古いアパートだ。壁の厚みなどたかが知れている。僕は廊下の壁に凭れ、リビングへ目線を投げた。すると彼女も何を言わんとしているのか察したのだろう。足元から離れようとしない小夜をそっと抱き上げた彼女は、恐る恐るといった様子で僕の正面に立った。そしておずおずと抱いた小夜を差し出してくる。




「君も」




僕は小夜を受け取る代わりにリビングを顎でしゃくった。意味を理解したらしい彼女がわずかに目を大きくさせる。その分かりずらい変化に肩を竦めた僕はリビングへ足を向けた。背後から控えめな足音が聞こえ、ドアの閉まった音が追いかけてくる。




「君、なんか食べた?」

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