第25話
「どこにも行くところがなかったから」
「は…?」
「行くところが、」
「いやいやいや、だからってなんで僕なんだよ。昨日は仕方なく入れてあげたけど、ずっと居ていいとは一言も言ってないよね?行くところがないなら警察行きなよ」
苛立ったせいで随分早口になってしまった。しかし、不満を吐いたも気分は晴れない。彼女も何を考えているのか黙ったままだ。それがさらに僕を苛立たせる。
「悪いけど帰って」
玄関を一瞥した僕は吐き捨てるように言った。これ以上、埒が明かないやり取りはごめんだった。どのくらい時間、静寂の中で見つめ合っていただろう。やがて目を逸らした彼女のほうだ。彼女は腕に抱いたままの猫をソファへ下ろすと、軽く会釈をしてから僕の横を通り過ぎようとした。
ありがとうございました、と、消えそうな声を耳が拾う。僕は返事をせずに猫の元へ向かった。背後ではガチャ…と、ドアノブを捻る音がする。このまま部屋を出て行ってくれればすべてが終わる。これまでの日常が戻ってくる。彼女にどんな意図があってここに来たのかは知らないが、知る必要がないことも分かっていた。
だってほら、彼女が部屋を出れば全てが終わる。今夜はゆっくり風呂に浸かれそうだ、と、小夜の頭を撫でようとしたときだった。パチ、と、小夜の目が見開く。その目には刃のような鋭さが見え、ピンと尖った耳が気配を研ぎ澄ます。
「小夜?」
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