第15話

「…めずらしい」




気づいたときには驚きを零していた。


退院した猫を引き取ってからというもの、掛かりつけとなった動物病院の獣医には懐いていたが、しかし、他人を前にした猫は怯えを見せるどころか、その姿さえ見せようとしなかった。


脱兎の如く逃げ出し、寝床の片隅で息を殺して蹲る。


彼女も「え?」と首を傾げる。変に気負いされても困るが、疑問に答えないのも変なので「捨て猫なんだよ、その猫」淡々と答えた。




「捨て…、猫?」


「そう、捨て猫。雨の日に段ボールに入れられて捨てられてたの」




僕は腰を折って手を伸ばす。


彼女に擦り寄っていた猫は「みゃあ」と僅かな抵抗を見せたが、腕に抱いてやれば大人しく収まった。ゴロゴロと喉を鳴らし、うっそりと目を細める。うん、可愛い。




「だから懐かないの」




僕と獣医以外には。


あえて口には出さなかったが、今の言葉でも十分伝わっただろう。


例え人間の想像であっても、産み落とされたばかりの猫が生きていけるほど優しい世界ではない。


生きる術も、自分の存在も、何も知らされないまま小さな箱に入れられ、冷たく濡れた世界へ放り出される。

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