第14話
彼女は口を噤んだまま僕を見つめる。揺らぐことを知らない瞳は相変わらず静かで。弧を描いた唇からはハッと乾いた笑いが漏れる。
わざとらしく首を傾げたのは僕だが、手ぶらなくせに試すようなことを言う彼女にらしくもなく苛立った。
「自分の名前も言えない君に何を聞けっていうの」
冷たい声が出たことに自分自身が驚いた。フォローを入れるべきか唇を迷わせるも、すぐに考えを改める。
目を伏せた彼女が言葉を探すように睫毛を震わせたかと思うと、やがて「あ」と、小さな声を漏らしたからだ。
琥珀色の瞳もわずかだが見開いている。
「みゃあ」
静寂を裂いたのは猫だった。
無意識に彼女の視線を追えば、室内を自由に歩き回っていたはずの猫はいつしか彼女の足元にいた。小さな背中をころんと丸め、細い尻尾がパタパタと床の上を泳ぐ。
生まれた境遇から決して人懐っこい性格をしているわけじゃないのに、彼女に寄り添う猫は無防備だった。
ゴロゴロと聞こえてくる音は習性の一つで。初対面にも関わらず安心しきっているのが一目に分かる。
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