第13話

「僕はもう寝るけど、君はどうする?」




風呂という選択肢はあえて省いた。一日の疲れを洗い流さないままベッドに入るのは嫌だったが、余計なことは意識したくなかった。


もちろん僕にそんな気は微塵もない。それでも相手は制服に身を包んだ未成年だ。要らぬ警戒を抱かれ、部屋に上がっておきながら一線を引かれるのも癪だと思った。


彼女はそっと顔を上げた。深い琥珀を秘めた瞳が僕を見つめる。彼女は露程も減っていないグラスを手のひらで包みながら「どうすればいいですか?」と、最も返答に困る言葉を投げてよこした。




「ソファでいいなら毛布持ってくるけど」


「何も聞かないんですか?」


「今更それを君が言うの?」




何も知らない。何も覚えてないと言ったのは君じゃないか。引き攣る口元で無理やり笑みを作る。




「じゃあ、名前を教えてよ」


「名前…、ですか?」


「そう。君の。まさか名前も覚えてないなんて言わないよね?」

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