第110話

「…暑い。」



嫌でも耳に入ってくる蝉の音が一層鬱陶しい。



襖を全開にしているものの、入ってくる風も緩い。



とにかく暑い。



「暑い。」



今日だけでおそらく三十回以上は口にしたであろうその言葉を、つぶやいた時だった。



「わぁー、この部屋も暑いですねぇ。」



「…。」



最近、突然部屋に入ってくるこの男の行動に驚かなくなった自分が恐ろしい。



「無反応なんて珍しいですね。」



「…反応するほど暇じゃないんだよ。」



「あはは、面白いですよね〜蝶さんって。」



胡散臭い笑顔を振りまきながら、当たり前のように座ったのは沖田だ。



「体調は?もう良くなったのか?」



確か、沖田は戦に出ていなかったはず。



何か理由があるとすれば、池田屋からの体調不良くらいだろう。



「倒れたのは随分前ですし、今回は屯所の警護に当たっただけですよ。別に、具合が悪かった訳じゃありませんしー。」



「わかった、わかった。」



「その言葉、そのまま蝶さんに返しますよ。今度は怪我したって?」



じっとりした視線を交えながら、沖田は蝶を見やった。

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