第105話

襖を隔てていても、その場の空気が変わったのが分かる。



「…。」



「だけど、私が殺したあの男にも守るべきものがあったはずで、」



やはり、彼女はまだ



「あの男にも、大事に思う人がいたんだよな。」



子供なんだな。



「…そうだ。」



「私はその幸せを奪った。たかが、私の命一つを守る為だけに。何の意味も理由もなく、人の命を奪えるんだ、私は…っ」





『結局、お前…さ…ん、は…』





そうだ、もう日の下には戻れない。



そんなことは百も承知だ。



それでも、これまで自分は自分の正しさのために戦ってきた。



だが、今日のは違う。



「何の正義もなく、自分の生ためだけに人を殺した。それが出来る人間なんだ。それが怖い…怖いんだ。なあ、斉藤。」



「なんだ。」



「…そう思うことは、間違ってないよな…?」




「…間違ってない。」



斎藤はきっぱり答えた。



「俺は刀を持つ人間だ、そしてお前も人を殺せる武具を持っている。」



斉藤は自身の腰に携えた黒光りする刀の背をそっと撫でた。



「自分の手にある武器への恐怖は忘れてはならん、この先絶対に。」



「…うん。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る