第103話

***


「小芝。」



「…。」



再び部屋に戻り、声をかけると返事がなかった。



眠っているのかと思ったが、微かに物音は聞こえる。



傷を拭う為の手拭いと、蝶の部屋に戻る途中で山南から預かってきた握り飯を手に、斎藤は再び声を掛けた。



「…小芝、入るぞ。」



「…。」



なにかを擦るような微かな音だけが返ってくる。



そっと襖を開けると、彼女は少しだけ開けた窓から夜空を眺めていた。



壁にもたれ、膝を抱える彼女は随分小さく見えた。



「山南さんからだ、食べておけ。それと手拭いで軽く傷を…」



その時、彼女の肩が小刻みに震えている事に気がついた。



「…おい、」



「少し…。」



斎藤の声に、蝶は声を被せる。



「少し、一人にしてほしいんだ…。」



ゆっくりと紡がれた言葉に、反論する事は出来ず、斎藤は静かに部屋を出た。

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