第102話
「…すまない、感謝していないわけじゃない。ただ、やっぱり悔しくてな。」
何か思うところがあったのだろう、蝶は斉藤の着物をギュッと握って背中に顔を埋めた。
「…嫌なら、もう言わない。」
「…。」
斎藤の声に、返事はなかった。
部屋に着き、彼女をゆっくりと降ろす。
「汚れた物は明日の洗濯で洗ってもらえ。今晩は俺がこのまま監視役だ。」
「分かった。」
「…少し離れるが、余計な事はするなよ。」
「今更どうもしないよ。」
斎藤の忠告に、蝶は漸く笑った。
それを見て、とりあえず要件だけは伝えたと、斎藤はさっさと部屋を出ていこうとする。
その時。
「なぁ。」
蝶の声に、その動きは止まる。
「なんだ。」
「街は…その…酷いのか?どのくらい燃えてるんだ?」
おずおずと話を切り出す蝶。
それを少しだけ眺めてから、斎藤は襖に手をかける。
「俺が見た限りでは、被害は小さくはないだろうな。」
「街の、はずれの方は?」
「さあな。」
「…斎藤、明日」
「だめだ、己の立場を考えろ。」
蝶の言葉を遮るように、斎藤は硬い声で警告する。
少しだけ見えた目には、鋭さが混じっていた。
沈黙の後、蝶は困ったように笑う。
「…そうだな。すまない。」
「…。」
ぱたん。
斎藤はそのまま、部屋を出た。
閉めた襖の向こうから、疲れたような溜息が聞こえてくる。
少しの間、その場に立ち竦んでいたが、やがて斎藤はそっとその場を離れた。
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