第93話

家は、少しずつ崩れ始めている。



玄関だった場所には、ぽっかりと穴があるのみだった。



急がなくては命はない。



その思いで、蝶はその穴に体を滑り込ませる。



それにならって、勘助がその穴を通ろうとした、その時。




ズウゥゥウ…ンッ…




低い地鳴りのような音ともに、家全体が大きく傾き始めた。



勘助の頭の上に、柱の一部が落ちてくる。




「勘助!」



ザクッ…!


カラン…ッ







「お兄ちゃん…!」



ギュッと、蝶に勘助が抱きついたところで、家は完全に崩れ落ちた。



花の紋様を携えた苦無を、飲み込んだまま。



蝶が咄嗟に投げたそれが、勘助の頭上に落ちる柱の軌道を変えたのだ。



「…大丈夫か。」



「「うんっ」」



幼い二人が、にこりと笑顔を向ける。



「キリちゃんに、勘助ちゃん!お母ちゃんは!?」



「おばさん!」



笑う二人に声を掛けたのは、一人の中年の女。



呼び合う名前から推測すれば、近所の知り合いだろう。



「母親は幼子と共に避難した。二人を頼めるかい。」



「ええ…あなたは?逃げなくちゃ!」



女に二人を託すと、蝶はふっと笑った。



「仕事がある。無事を祈っているよ。」

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