第92話

ズズ…ッ



「今だ!」



低い音と共に、柱が動く。


キリが思いっきり体をよじらせた。



「…っ!」



彼女の足は自由になった。



「姉ちゃん!」


「勘助!」



しっかりと抱き合う、幼い二人が視界に映る。



そんな微笑ましい時間も束の間、辺りから灰が落ちてくる。


ここも、直に火の手が上がる。



「行くぞ。」



そう言って足を怪我したキリを抱き上げ、勘助の手をしっかりと握った。



「勘助、絶対に離れるなよ。」


「うん!!」



そう力強く頷いた勘助は、先程まで泣きべそをかいていたとは思えない。



この賢い幼子は、今すべき事をちゃんとわかっているーー。



それを確信して、蝶はフッと笑う。



「キリ、出来るだけ息はするな。」



「え?」



「喉をやられる。あまり大きく吸うとまずいからね。」



そう言いいながら、勘助にも懐から出した手拭いを口元に持つように指示する。



「行くぞ。」



今度こそ、蝶とそれを追う小さな足は動き出した。

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