第89話

「どうしたっ?」



声を頼りに熱い街を駆けていくと、ある一軒の家の前にたどり着いた。



ぺたんと座り込んだ、一人の女。



恐らく、彼女が声の主だ。



「子どもが、まだ中に…っ!!!」



蝶を見るなり、泣きじゃくりながら縋ってくる女が指差したのはその家だった。



隣の家から火の手が近づいている。



時間がない。



そう、とっさに判断すると蝶は女の肩をしっかり掴んだ。



「子供は、必ず私が助ける。だから、早く逃げて。」



「いや、いやぁぁ!キリ、勘助ぇ!!」



手足をばたつかせて、暴れる母親。



金切り声を上げる彼女は、すでに正気が失っている。



このままでは、一家全滅だ。



「奥さん、早よ逃げぇ!」



野太い声と共に、女の肩に新たな手が寄せられた。



ばっと顔を上げると、一人の商人らしき男が女を立たせようとしている。



「親父、この人を安全な所に!」



「兄ちゃんは!?」



「後で向かう。さあ早く!」



女を立たせるのを手伝いながら、蝶は二人を急かす。



「大丈夫、必ず助けると約束する。」



未だに暴れようとする彼女に届くかは分からなかったが、それだけを耳元に伝える。



それが合図だったかのように、男は彼女を連れて人波へと消える。



「キリィィ!!勘助ぇえ!!」



そんな声が、パチパチと燃える炎の音と共に遠くから聞こえていた。

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