第36話

「な、に…しやがっ…!」



「ただの毒針だ。」



蝶の言葉は、恐らく男には届いていないだろう。



苦しむ男。



それを見下ろす女。



二人を照らす、白い月明かり。



それは、とても不気味で恐ろしい眺めだった。



既に、男の目は焦点が合っていない。



喉の奥から絞り出すような男の掠れた呼吸の音だけが、部屋に響く。



それを、何も言わずにただじっと見つめていた蝶は、ふっと目を伏せた。



「…残念ながら私には人が苦しむ姿を見るような趣味は無いんだ。」



そう言うと、苦しみで床に転がった男の目の前に、苦無を突きつける。



その途端、目を恐怖に見開き、男は再び動きを止めた。




彼女は無表情なまま、瞬きをひとつした。



「苦しまずに逝きなよ。」




ザクッ




そのまま、力一杯、男の脳天に突き刺した。

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