第32話

ガラン…




男の刀が落ちる。



「…ぁ…っ!てめぇ…!」



男は、蝶が投げた苦無が刺さった手を抑えて、がくりと膝をついた。



間に合った…。



そこで初めて、蝶は自分が自然と息が上がっていることに驚いた。



男が刀を振り下ろすのと、蝶が懐の苦無を投げるのは、ほぼ同時だった。



いちかばちか。



反射的に投げた苦無は、見事に男に命中したのだ。



「…蝶さん!?」



こちらも息の荒い沖田は、驚きを隠すこと無く名前を呼ぶ。



「どうして、貴方が…!」



「言ってる場合か、傷は?」



沖田に近づきながら、蝶はその体をよく見てみる。



「…い、いえ、特には…」



戸惑ったように答えながら、壁にもたれかかる沖田。



顔も赤くなっていることが、月明かりで分かった。



「下はほぼ大丈夫だろう。此処が…」


「蝶さん!」


ザッ



今度は、沖田の声と蝶の足元に刀が振り下ろされるのがほぼ同時だった。



「っ、へえ、まだ握れたんだ?」

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