放課後になっても平田の言葉が頭を巡る。平田は何を思いながら言ったのか─────。

「ゆなー!」思考を遮る甲高い声が耳を貫く。クラスで最も仲がいい彩香は、私の耳元にも関わらず声量を慎まない。目を細める私にはお構い無しというふうに、彩香は早口で捲し立てる。スタバの新作、メロン味、めっちゃおいしそう、一緒に行きたい。早口の中から要所要所を聞き取り、内容もあまり理解しないまま親指を立てる。彩香は私にとって悪い提案はしない、仲がいいからわかるのだ。

席について新作とやらを飲む。うん、確かにおいしい。しかし正面の彩香は微妙な顔をしている。期待外れだ、という顔だ。彩香の心は顔に出やすい。喜んでいる時は目を大きく開け、怒っている時は口をきゅっと噤み、哀しんでいる時は大粒の涙をボロボロ流し、楽しんでいる時は全力で笑う。

お互いがあらかた飲み終わったタイミングで、少し聞いてみる。「日本史の平田の話聞いてた?」彩香はなんでもないような顔で言う。「寝てたからよくわかんないかも」なんというか、もう少し罪悪感を感じないものなのか。私は私を棚に上げてそう思う。「なんか面白いこと言ってたの?」彩香が身を乗り出して聞いてくる。「実はさ、」平田の言葉をそのまま話す。彩香は少し上を向いて考えたあと、「私はね、」と始める。「誰かを愛するって超いいことだと思うけど、人は殺しちゃいけないと思う!死んじゃったら悲しいし!」小学生の様な、実に単純明快な持論。しかし、私を納得させるには十分だった。彩香は身を乗り出したついでに私のスコーンを一つ食べる。額を小突く。いてっ、と言う。

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