三
今日と明日の境目、或いは昨日と今日の境目。深夜にコミカルな電子音がスマホから鳴る。彩香からの着信だ。いつもの高く大きい声を予想してスマホの音量を下げると、彩香の消え入るような「もしもし?」が聞こえた。驚いて思わず音量を上げると、あのねあのね、と親の気を引きたい子供のように話し出す。ひそひそとしているが、感嘆符が付いているような言い方だ。
「彼氏できたんだ!」
「え?」
また驚く。たしかに彩香はモテる。かわいらしい容姿と明るい性格は、異性を惹きこむのだろう。しかし、彩香からは浮ついた話は聞いたことがなかった。
「誰と付き合ったのさ」
頭の中に様々な可能性が浮かぶ。クラスで一番の男前である佐々木か、人気者の明石か、それとも他校か、彩香は誰を選ぶのだろうか。そんな束の間の妄想を断ち切るように彩香は言う。
「石川くん!大智って呼んでるけどね」
この電話で何回驚けばいいのだ。なんて呼んでるかはどうでもいい。問題は相手だ。石川大智、卓球部。身長は高めで細身、眼鏡をかけている。正直、彩香の彼氏らしくはない。その後彩香が彼の魅力だったり馴れ初めを語ってた気がするが、それ以前の衝撃のせいであまり頭に入っていない。まあとりあえず、彩香が幸せそうなので何よりだ。じゃあね、また学校で、と電話を切った頃には深夜の1時をまわっていた。ずいぶん長く話しこんでしまった。というより、聞きこんでしまった。余韻が薄く響く感じがする。そうか、ついに彩香にも彼氏が出来たのか。私だけの静かな部屋の電気を消し、ゆっくりと眠りにつく。
ダンタリオンの告白 @moguoni
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