ダンタリオンの告白
@moguoni
一
昼下がり、五限。六月で、じんわりと夏。日本史の平田は、いつも通り眠たい授業をしていた。起きてるのはクラスの半分、その内半分は内職か携帯。まともに授業を聞いているのは、せいぜい十人といったところだろうか。平田の声はきっと、人を退屈にさせる周波なのではないだろうか。下らない想像をしている私も、まともに授業を聞いてはいなかった。落書き、携帯、時々欠伸。眠っていない自分を正当化して、ただ眠っているように起きていた。チョークが黒板を叩く音が妙に心地良い。また欠伸をひとつする。すると平田は急にチョークを止めて、振り返って言った。
「皆さんは、人を殺したいと思う程、誰かを愛したことはありますか。」
開け放しの窓から初夏の風が吹き込む、カーテンが揺れる、前髪が浮く。
突然の殺したいという強い言葉、そして愛したという甘い言葉に、驚いたのは私だけでは無いはずだ。その質問か独り言か分からない平田の言葉に、生徒は誰も答えられなかった。数秒教室が静まった後、平田はゆっくりまた口を開く。
「もちろん私もないんですけどね、私は羨ましいんですよ。誰かを殺したいと思える程、人を愛せるのが。」
平田の言葉は意外だった。教師の言葉のはずだが、その言葉はまるで理由のある殺人を肯定しているように聞こえた。
「皆さんも将来、誰かを愛することがあると思います。人を殺せる程、とまではいかない方が良いですが、それくらい愛せる人を見つけて頂きたいものです。」
平田はどこか私たちの奥を見ながら言った。
言い終わるとほぼ同時にチャイムが鳴り響いた。平田は授業の締め方が本当に上手なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます