ナイト

私は商店街を歩いていた。

いつもは行かないような場所。けれど、どこか見覚えのあるような場所。


しばらく歩き、私は店で卵2つを買った。

まあ、2つもあれば充分だろう。


次に私は果物屋でバナナをひとつ買った。

1房ではなく、1本。

なんの疑いもない。


さて、家へ帰ろう。

といってもこの足はどこに向かってるかも分からない。どこか帰るべき場所へ向かってるはずだ。


私は商店街の脇から路地に入った。

猫しか通らないような道を。


私はなんの迷いもなく、なんの躓きもなく、進んでゆく。

薄暗く、少しひんやりしている道を。


遠くでサイレンが鳴っている。

私の歩みは自然と早くなる。

それから、見てはいないが、私の背後が黒く沈んでゆくのが分かった。


私は表情ひとつ変えず─少なくとも自分の認識では─前を向き歩みをさらに早める。

呼吸は浅くなり、心臓は押しつぶされそうになる。


耳をもう一度傾けると、サイレンがさらに近くなっているのが分かった。

それと同時に、私の目の前が光に覆われる。




また、1日が始まる。

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想像の箱 日照天 @tomato-lemon

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