第3話-⑤

勢いよくファミレスを出て向かったのは真雪のバイト先であるカラオケ店だった。携帯で時間を確認するとまだ17時過ぎで、真雪がバイトに入るのはいつも18時頃この周辺で待っていれば会えるかもしれない。そう思った俺はここらで時間を潰す事にした。真雪と会って何を話すかなんて全く考えてないけど…ただ会いたいそれだけだ。


「…梶野くん?」


聞き慣れた声に驚き振り返るとそこには真雪の姿があった。


「真雪!?」


思ったよりも早い登場だ。


「どうしたの?こんな所で」


「ぁ、えっとこの辺にいたら真雪に会えるかなって」


そう言うと真雪は目を見開いた。


「ずっと待ってたの?」


「いや!今来たとこ」


「連絡くれたらよかったのに…」


その言葉に確かにそうだと苦笑いする。連絡先を知っているのにそんな事が抜けるくらい勢いで来てしまっていた。


「俺この後18時からバイトなんだけど」


「あー、うん」


「その前に軽くご飯食べようと思ってて、一緒に行く?」


その真雪の言葉に俺は大きく頷いた。その頷きに真雪はクスッと笑った。その笑顔に俺は何だか凄く心が満たされたのが分かった。

笑っただけ…ただそれだけなのに。凄く嬉しかったんだ。

それから近くのファミレスに入り適当に料理を注文したわいない会話をした。何でもない会話。ただ特に話の内容なんてものは覚えていない、そんな何処にでもあるような会話。笑って過ごした時間だった。そんな時間もあっという間ですぐに真雪バイトの時間に迫っていた。


「じゃあ、ここで 俺行くね」


「うん、じゃあな」


真雪の背中を見送る。暗くなり始めた空が真雪の姿を見えにくくする。


「真雪!!!」


咄嗟に呼んだ名前。その声に真雪はこちらに振り返る。


「夏休み中、連絡するから!誘うから!」


気づいたらそう言っていた。


「うん!待ってる!」


真雪は笑顔で手を振っていた。

あの時の笑顔を俺は一生忘れないだろう。

もしあの時何かもっと他の言葉を掛けれていたら何か違ったのか…そんなことを考えてしまう。

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