第3話-⑥

夏休みが始まってすぐの時だった。

真雪と会う約束をしてその日が明日に迫っていた時。


「はああ?ばあちゃんが倒れた?」


「そうなのよ、階段踏み外しちゃったらしくて腰打ってね大変らしいのよ」


「大丈夫なのかよ、ばあちゃん」


「頭を打った訳じゃないから、大丈夫よ ただね、お世話してくれてる桐子さんが夏風邪拗らせちゃって寝込んでる間面倒見てくれないかって連絡来て母さん田舎帰らなくちゃ行けなくなって」


「桐子さんって桐子叔母さん?母さんの弟の賢治叔父さんの?」


「そうお嫁さん、賢治は仕事が夜遅いからいつも桐子さんが面倒見てくれてて他に誰もいないのよ だから母さん明日から田舎帰るわ」


明日…。明日は真雪との約束の日だ。

俺はどうしようかと考える。


「あんたはここに居ていいから」


俺の様子に気づいたのか母さんは言葉を続ける。


「お兄ちゃんも仕事あるし、あんたもバイトや予定あるんでしょ?」


「あぁ、まあ」


「お兄ちゃんに明日の朝車で送って貰うから」


「あぁ…分かった」


そう言って母さんは田舎に帰る準備を始めた。その後ろ姿を眺めながら考える。母さんはしっかりしている所もあればどことなく抜けている所もある。それにばあちゃんと母さんの相性はあまり宜しくない。いつも帰省すると少なからず言い合いをしているのは聞いたことがある。昔母さんの弟である賢治さんにチラッとふたりの中について聞いたことがあるが仲はどちらかと言うと悪いと言っていた。母さんひとりで行かすとなると絶対ばあちゃんと喧嘩するだろうなと頭の片隅に思った。何だかほっとけない。真雪には悪いが、明日の予定はずらしてもらおう。


「母さん」


「なあに?」


「俺も行くよ」


そうして俺も一緒に田舎に帰ることにした。



次の日簡単に支度をして兄が運転する車で母さんの田舎に帰省した。都会から田舎へと景色が移る中昨日真雪に電話した時を思い出していた。

約束日の前日と言う事もありメールより電話の方が良いだろうと考え俺は躊躇もなく真雪に電話をした。


『もしもし』


真雪は数コールですぐに出た。


「真雪?俺」


『うん、どうかしたの?』


「実は明日の事なんだけど」


真雪には全てを話した。ばあちゃんが階段から落ち腰を打った事、世話をしてくれていた桐子さんが夏風邪を拗らせた事、ばあちゃんと母さんの仲、田舎に帰省する事になったこと。


『おばあさん大丈夫なの?』


「頭を打った訳じゃないから、腰以外は大丈夫らしい」


『それは良かった、けど腰ってことはあまり動けないんじゃない?』


「うん、基本ベットの上で生活してるらしくて」


『それは大変だ、俺のことは気にしないで 会うのはまた後日にしよう』


「本当にごめん」


『なんで梶野くんが謝るの』


「…俺から誘ったのに」


『全然いいよ、帰ってきたらまた連絡頂戴』


「うん、分かった じゃあまた連絡する」


『…うん、じゃあね』


電話を切ろうと携帯を耳から話す。


『梶野くん』


その瞬間真雪の声が聞こえ慌てて携帯を耳に戻す。


『明日気をつけて帰ってね』


「うん、ありがとう」


『…じゃあ』


「うん、また…」


そしてブチッと電話が切れる音がした。真雪との会話はそれだけだった。心做しか真雪の声は少し元気がなかったのように思う。いつも気怠げな話し方でいつも通りと言えばそうだが、でもやはり少し元気がなかった気がする…。

少しの違和感と共に車の窓から見える田舎道の風景を眺めていた。

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