12話 善戦

 それから僕らは装備を整えて、明るいうちにリエルが残した姫雛草ひめひなぐさを頼りに森を進んでいき、奴らのアジトを突き止めた。


「敵の数は…あの時と変わらず十五人だな。」


タリオさんは風魔法とその派生の音魔法を使えるらしく、魔法でアジトの内部を探知していくれている。


「よし、内部構造もだいたい把握出来た。緩んでいるのか見張りも今は一人しかいない。これなら明日も同程度の警備だろうな。」


敵情視察が終わると、僕らは奴らに悟られないように山を降りた。

 あの御者と使用人には僕らの馬車を貸してやり、ルセル伯爵家に急ぎ事情を伝えるよう頼んである。

 奴らに見つかっても不自然じゃない程度に事件現場から前進した場所で、僕らは野営をしながら作戦会議を始めた。


「まず奴らのアジトは二つの山小屋があり、片方が地下室の入口になっている。そして地下室へは床の隠し扉から入ることができる。」


タリオさんは大雑把ながらも図面に起こしながら話を続ける。


「地下内部はかなり狭くなっていて、大の大人だと屈んでいないと歩けないほどの高さで、ギリギリ二人すれ違える程度の横幅になっている。だから、地下への侵入は君たちに任せたいと思う。」

「ああ、分かった。」

「それから…」


奇襲の合図や優先目標などの話をまとめて、最後にタリオさんは僕らに問う。


「相手が雑魚なら俺一人で五人は殺れる。君たちはどこまで戦えるんだい?」

「んー、人の胴体を一振で両断できるくらい??」


アレクはイタズラっぽい顔をして言う。


「別に木で例えれば良かっただろ…!僕は、レベリングしていない大人と同程度の速力と筋力がある程度です。僕もアレクも魔物しか相手にしたことがないので、どこまでやれるかは分かりません。」

「ふむ、その歳でそこまでできれば大したもんだ。作戦通りに行けばきっと上手くいくさ。」


タリオさんは苦笑いしながら僕らを励ましてくれた。それにしても、田舎の山賊といえど、一人で五人を殺せると断言するほどとは、やはりタリオさんはただの御者ではなかったらしい。


 それから、早朝に目を覚まし再びアジトに着いた僕らは、まず地下室の有る方から攻略を始める。

見張りは両方の小屋の前に一人ずつ、残りはそれぞれの小屋の中に六人ずつ確認できたが、地下室には見張りはいないようだ。

 始末した傍から交代の番に見つかってはいけないので、予め次の交代を待ってから奇襲をかけることにした。

 風系統魔法で音を消したアレクとタリオさんの奇襲は強力無比で、見張りをあっという間に始末してしまった。

アレクは胴体を両断して、タリオさんは敵の首元を最低限の動作で掻っ切っていた。

少し吐き気を覚えたが、僕も気を強く持たなければならない。

アレクはとっくに腹を据えている。

人を相手に戦うということは、命のやり取りをするということは、どういうことなのかを、今一度覚悟しなければいけない。


「魔法で匂いと音を遮断しているから、あっちの小屋の奴らには次の見張りの交代までは見つからないだろう。今から突入するが、ハートは予定通りに動いてくれ。」


僕はコクリと頷いて、タリオさんとアレクの後ろに下がると、二人は勢いよく突入して一気に二人を斬り伏せた。


「なんだこいつら?!チッ、昼間のガキか!ふざけた真似しやがって!お前ら、やっちまえ!」

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!喰らえ、漣剣リプルソード!」


アレクは声を張っている最中の顔に痣がある男に、ものすごい形相で斬りかかる。

アレクの水魔法がかかった剣と敵の剣がぶつかると、鈍い金属音ではなく甲高くピキンッという音がした。

なんとアレクは相手の剣を両断してしまった。

一見興奮しているように見えて、冷静に距離を取りながら戦っているようだ。


「このガキ!ぬわっ!」

「お前らの相手は俺だ!」


タリオさんも華麗な剣捌きをしていて、風魔法を駆使しながら二人を同時に相手をしている。


「待てガキ!おらぁ!」


残りの一人が僕を狙って攻撃してきた。

敵をよく見て上段切りを少し大きく交わしてから、相手の隙に合わせて懐に潜り、足を狙ってこちらも剣を繰り出す。

件が命中し、動けなくなった敵をアレクたちに任せて、急いで床の隠し扉から地下室に向かった。

 地下内部に見張りが居ないことはタリオさんが確認していたので、一番戦闘力の低い僕がリエルたちの救出に向かう。

情報通り地下は狭く天井が頭スレスレだ。

すぐにリエルのいる牢屋へとたどり着くと、隣にはマティ令嬢らしき少女も一緒に居て、二人とも眠ていた。


「リエル、助けに来たんだ。起きてくれ!」

「んむぅ?はーと?もう来てたのね、ちょっと待ってて。今開けるわ。」

「ああ、任せた。」


リエルはすくっと立ち上がって鉄格子に手をかざすと、ドカッと地面から生えてきた蔦にみるみるうちに覆われてしまった。


「危ないから少し下がってて。」


僕が返事をしてしばらくすると、バキンッという金属音が鳴り蔦が解けていく。

地面には折れた鉄格子が落ちており、リエルは目が覚めたようなすっりした目をしていた。


「おはよう、助けに来てくれてありがとう。それから、彼らはどうする?」


そう言ってリエルは眠っているマティ令嬢たちの方に振り返る。


「彼らは置いていこう。万が一僕らが全滅した時、外にいる状態ではむしろ危険だ。」

「分かったわ。二人は上にいるんでしょ?早く行きましょう。」

「ああ!」


上では既に戦闘の音が止んでいた。どうやら、決着が付いたみたいだ。







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