11話 拉致


「おい、やばいぞ!」

「そんなこと見たらわかるわよ!」


一部始終を見ていたアレクとリエルも動揺を隠せないでいた。

かく言う僕も平静ではなかったため、タリオさんに判断を委ねる。


「タリオさん、どうしますか!」

「後ろの奴らもおそらくグルだが、一応停止の合図を出してくれ。」


タリオさんは冷静に指示を出してくれる。

すぐにどちらの馬車も停止した。また、前方では既に戦闘が始まっていた。


「ここで放っておくのは男じゃないぜ、行くぞハート!」

「まてアレク、奴らの狙いはおそらくあの貴族だ。だが、俺たちの技能がバレれば最悪奴隷として捕えられるかもしれない。」

「だからなんだよ、それは見捨てる理由にはならないぞ!」

「分かってる。タリオさん、指示をお願いします。」

「ハートの言う通り、最悪を想定して技能を見せるのは最終手段だ。相手は最低でも十五人はいる。今は奴らから接触してくるのを待とう。助けに行くかは状況次第で判断しないか、アレク。」

「チッ、分かった。」


この場で最も経験がある大人に諭されたことで、アレクも冷静になれたみたいだ。


 外の様子を伺いながら数分が経過した。

どうやら戦闘が終わり、残念なことに乗員達の何人かが拘束された。

その中にはどうやら貴族の令嬢もいるようだ。

すると、後ろの馬車から件の二人と、前からも二人の男が近寄り、話しかけてきた。


「おい、馬車から降りろ。大人しく降りれば手荒なマネはしねえ。」


タリオさんは少し緊張した顔で「降りるぞ。」と短く言い、僕らはそれに従う。


「おお、近くで見るとやっぱり可愛らしい娘だな。」


顔に痣のついた男はリエルを下卑た目で足から顔まで見やる。


「おい小娘、金目のもの持って俺たちに付いて来い。そしたらそいつらは見逃してやるよ。」

「…おい!てめぇらマジぶっこっっ?!」

「分かったわ。ちょっと待っててくれるかしら。」


「ブチッ」とアレクのキレる音がしたかと思えば、隣のリエルがボカっと頭を叩いて静止した上に、涼しい顔をして人質を受け入れて馬車の中に入っていった。


(リエルは一体何を考えてるんだ!)


ものの数十秒で小袋を持ったリエルが降りてきて、堂々と山賊の方へ向かっていく。


「お待たせしました。」

「おお、素直なガキは嫌いじゃない。約束通りこいつらは見逃してやるよ。」


リエルは最後に意味深な笑みを残すと、そのまま奴らに連れて行かれてしまった。

だが、僕らは見逃さなかった。


「タリオさん、準備をしましょう。」

「準備って、何を…?」

「リエルたちを助けに行く準備ですよ。」


 あれから僕らは、まず貴族の馬車の生存者の確認をした。

御者と侍従だけが残っていたが、幸いなことに死者はいないらしい。


「ありがとうございます、手当だけでなく食べ物までくださって…。」

「いえ、情報提供料だと思ってください。」


話によるとあの馬車に乗っていたのはここら一帯の領地を治める、ルセル伯爵家のご令嬢のルセル=マティ様だったらしい。

そして奴らはこの辺りに根を下ろしている山賊のようだ。

今回の事は最近奴らが噛んでいた事業に、ルセル伯爵家が横槍を入れた腹いせではないか。との事だ。


「あなた方を生かしておいたということは、おそらくマティ様は身代金などを要求するための人質にされる可能性が高い。」

「つまり、まだ助けられると言うことですか!」


タリオさんの言葉への家臣たちの反応から、マティと言う令嬢がとても大切にされているのが伝わってくる。


「それだけじゃありませんよ。そこに生えている花を見てください。」


僕は道端にある姫雛草ひめひなぐさと言う花を指さした。


「この道の際の花がどうかしたのかい?」

「これは僕らの故郷の森に咲く花で、リエルの好きな花でもあります。」

「ああ、そしてあいつの技能は〈茨のソーンプリンセス〉と言って、植物との親和性が強い。」


そう、実はあの時リエルは道標として僕らだけが知る花をその場に残していった。

見渡す限りじゃ続きは見当たらないが、おそらく奴らが向かった方から森に入れば続きの目印が見つかるはずだ。


「そしてこの花は、奴らに連れていかれたリエルが野原を踏みしめた瞬間に咲きました。」

「そうか、なるほど…。」

「なので、今日これを頼りに奴らのアジトを突き止めたら、明日の朝に襲撃するのはどうですか?」

「ふむ、ルセル家の援軍を待ってもいいが…それでは守りを固められてしまうな。ここからルセル伯爵家まではどれくらいかかりますか?」

「馬車で一日ほどでございます。」

「なら、軍の派遣までに最短で3日ですか…奇襲の有効性は十分にあるな。」


タリオさんは諸々の思案を終えたのか、改まった顔で僕らに問う。


「しかし、失敗すれば全員が命を落とす危険な作戦になるぞ。」


その言葉を、アレクは正面から受け止めて、据えた目をして言う。


「俺は世界最強目指してんだ、そんなことで怯んだりしねぇよ。それにな、ダチ置いて逃げましたなんてダセェことしたらそれこそ死んだ方がマシだぜ!」

「僕も!リエルをこのまま置いていくことはできません。一刻も早く助け出さないと!」


タリオさんはニヤリと笑うと、喝を入れるように声を張った。


「よし、それじゃあ装備を整えろ!準備が整ったら作戦決行だ!」









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