第28話 当たり
いつでもどうぞ、と言われ。周囲をずっと回っている炎を一つずつ眺める。どれも形は一緒だ。中心は赤黒く燃えており、手を入れたらただではすまないと、見た目だけでわかる。
(……いくか)
頭では意を決する。けれど心は動揺はしている。正直、怖い。でもやるしかない。確率は七分の二。助かる可能性の方が高い……そう自分を励ます。
思い切って前へと歩いて炎の一つを選び、その中に一気に手を入れた。
熱さを感じないそれは偽物だった。中心に硬い石のようなものがあり、それを抜き取ると見せかけの炎はシュンと消えた。
(まずは一つ)
青い炎のカミナはクスッと笑い、状況を楽しんでいるようだ。続いてもう一つ、己に近づいてきた炎にラズは手を入れ、核を抜き取る。続けて勢いに任せて、もう一つも。
(残るは四分の二)
四つの炎が等間隔に円を描き、周り続ける。
「ねぇ、ラズ様。ずっと同じことしていても退屈でしょうから少しお話ししてあげる」
集中して炎を見ていた時、面白がる声が響いた。
「私達、大地の民に特殊な力があることは知ってるでしょ。その力が何か、興味はあるかしら? あなたは不思議に思わなかった? 明るい時は私だけ、夜だけはヤミナに会えることが」
そう、今までずっと何年も、二人の女性のことは知っていたが。その二人が一緒にいたところは見たことがない。仕事上、交代で酒場を切り盛りしているからと思ったことはある。
「その答えはね、身体が一つしかないからよ」
青い炎が揺らめき、笑ったように見えた。
「私達の特殊な力は色々あるけど。一つは身体に複数の魂を宿すことができるの……ふふ、大丈夫よ、誰にでもじゃないわ。宿れるのは大地の民のみ。だからもし身体を失っても魂があれば大地の民の身体に宿ることができるの。もちろん性格はそれぞれ別で、主だった時だけは身体は自由に動かすことができるの」
「そんな力が……なんのために?」
「死んでも再びよみがえられるからよ」
思わず赤い炎から目を離し、青い炎に目を向けると、炎は残念そうに少しだけ小さくなった。
「でも残念ながら身体の完全再生はできないの。私はもう何百年も前に身体を失ってしまった。あなたが見たことのある赤い衣装を着たあの身体はヤミナの魔力で再現してもらってるの……つまり、私はこの炎のような魂の姿が正解ってわけ……はい、お話はここまでね。あとは、あなたがゲームに勝ってから」
再び赤い炎に目を向ける。相変わらずどれが正解なのかは、わからない。緊張しすぎて喉が乾いてきた。早く終わらせたい、早く――。
(炎を、選ぶんだ)
大きく深呼吸し、ラズは一つの炎を選んだ。中に手を入れて核を掴もうとした――しかし。
「うっ!!」
手を入れた途端、腕全体に痛みが走った。炎が自分を包み込もうと肩ぐらいまで燃え広がる。
「あらあら、当たり、みたいね」
高温の空気で目がしばむ。炎から手を離そうとしたが炎は生き物が獲物を食らうように、自分の腕を包み込んだまま離さない。
「くそっ!」
腕を振っても炎は離れない、カミナが「ムダよ」と言った。
「残念、片腕はこれで――え?」
カミナの驚く声が上がる。自分の腕を包んでいた炎が急に勢いをなくし、小さくなり、やがて消えた。多少の痛みはあったが黒くすすけた腕はしっかりとここにある。焼け尽きることはなかった。
「……あら、やだ。ラズ様、誰かに守りの魔法をかけてもらったわね」
(守りの魔法?)
その魔法は今さっきシリシラがかけてくれたはず。では腕が無事なのは、そのおかげか。
腕を動かしてみるが、ちゃんと動く。心の中でシリシラへの感謝の言葉を述べておいた。
「ふーん、さすがみんなから慕われるラズ様ね。でも次はもう守ってくれるものはないわよ」
その言葉で今の一回だけで守りの魔法の効果が消えてしまったのだとわかる。一回だけでも十分、シリシラがくれたチャンスだ。
(残り、三分の一だ!)
ここまでくれば運を天に任せて目の前の炎を選んでやる。なんとかなる、そう信じて。
三つの炎が回る。その三つを見比べ、その中の一つを選ぶ。
(熱く――ないっ!)
中心の核をつかみ、引き抜く。残る三つのうち、一つが消えた途端、残る二つの炎が勢いを増し、自分の背よりも大きな炎となった。うわっ、と声を上げると、カミナは楽しそうに笑った。
「すごいわ、ラズ様。あと二つね。正解は一つだけ」
炎の勢いは、ただ自分を臆させるだけのものなのか。もしくは腕だけでなく、外したら全身を燃やそうとしているのか。
「さぁ、選ぶのよ」
大きくなった炎は二つだけで回っている。気のせいかもしれないがどちらも熱く、この場にいるだけで汗をかく。炎を凝視して瞳も乾いているのか、ピリピリする。
(一つ、一つは……)
失敗しても片腕だけ……片腕だけだ。
大丈夫、大丈夫。自分の中でたくさんの言葉が浮かび、消え、また浮かぶ。頭の中に、みんなの姿を思い描く。自分を慕うたくさんの人、助けてくれる人、守ると言ってくれた人――。
…あの青い髪と瞳を持つ、いつもそばにいる人……その人が自分を呼ぶ……『ラズ様』と。
(選ぶんだっ!)
二つのうち、一つ。目の前にある炎へ歩み寄り、手を伸ばした。手を引きたい気持ちを押し殺して(いけっ!)と喝を入れた。
「あら……」
カミナが笑った気がする。
「うふ、すごいわね、ラズ様……大当たり」
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