呪いの原因は自分……?

第27話 カミナと勝負

『俺はなるべくカミナには会いたくない。だからカミナの元にはお前一人で行ってくれ。まぁ、心配すんな……守りの魔法はかけてやったからさ』


 シリシラと妙な騒動はあったものの、無事に守りの魔法とやらもかけてもらい、ラズは酒場へと向かう。道行く人々に明るく挨拶や呼びかけてもらうと(この人達を、俺は守りたい)という決心は増々固まっていく。


(全く、一人で逃げてきただけなのに……すごいもんだよな)


 ここまでして大地の民は自分の命を取り込みたいのか。先祖はどれだけひどいことをしたのだろう。今の自分が先祖に会ったなら徹底的に追求して処罰を下したいところだ。

 自分の呪われた血を憎々しくも思いながら歩き、いつも人でにぎわう建物の前にたどり着いた。

 しかし、珍しく酒場の木製の両開きドアはまだ閉ざされていた。


(珍しい……なんだか嫌な感じだ)


 酒場は日中はカミナが、夜はヤミナが切り盛りをしていたことから。人がいないこと、ドアが閉ざされていたことは今までなかった。いつもと違う事態に、身体が緊張に強張った。

 シリシラがかけてくれた魔法もあると気合いを入れ、両開きドアの片方に手をかけ、引いてみる。

 するとドアはすんなりと開いた――まるで自分が来るのを待っていたかのように。


「カミナ、いるんだろ」


 中に足を踏み入れると、いつものにぎわいが嘘のように室内は暗く、空気は冷えていた。あまりの違いに、思わず喉が鳴る。


「……カミナ!」


 さらに中へ入ると自然とドアがバタンと閉まり、室内は完全な闇となる。

 おかしい、ドアの向こうは人々がたくさん歩いていたというのに、この静けさ。空間が切り離されたみたいだ。


「うふふ、ラズ様。よく来て下さいました……なーんてね」


 闇の中、楽しげな声がする。いつもなら安心するその声だが。この状況、背中はゾクッとした。


「カミナ、君も大地の民なんだろう? ヤミナから話は聞いた。今度は君の話を聞かせてほしいんだ」


「あら、なぜ? ヤミナから聞いたならいいんじゃないかしら?」


 声が四方八方から聞こえる気がする。カミナが飛び回っている? そんなまさか。不思議な反響に身体中の緊張は増すばかりだ。


「ヤミナと君は考え方が違う気がする……俺は君の話も聞きたい。大地の民のこと、もっと知りたいんだ」


「ふーん……なるほどね」


 急にカミナの声音が変わる。こちらを品定めでもするかのように、クルクルと周囲を漂い、伺っている気がする。暗くて何も見えない、何が起きているのかもわからない状態……正直、不安で心臓が速くなり、苦しくなってくる。


「じゃあ、ラズ様……私とゲームでもしましょうか」


「ゲーム? なんの――」


「あなたと、私の命をかけたゲーム」


 物騒な言葉に心臓がドクンと動いた途端、暗かった周囲に光が浮かぶ。暗闇の中に漂う、青い炎。中心は白く、周りが青く揺らめき、それが自分の周囲を飛んでいる。


「うふふ、ゾクゾクするわ」


 青い炎から声がした。ゾクゾクする、と表現したように青い炎が細かく揺らめく。


「カ、カミナッ!?」


 青い炎はぐるりと回転して「そうよ」と言った。


「それともあの姿の方が良かったかしら? でもね、この方が動きやすいのよ。元々、古い身体を無理やり動かしているから、いい加減ガタもきていて動かしづらかったの」


 そう、ヤミナとカミナは、はるか昔から生きている。ヤミナは『くだらない渦の中から解放されたい』と願っていたくらいだ。


「さてラズ様、色々聞きたいことがあるのでしょうけど。ただでは教えないわ。簡単なロシアンルーレットでもしましょう」


 そう言うと、辺りに青い炎とは別に赤い炎が複数浮かぶ……その数は合計七つ。それは自分達を囲むように円となり、回り出した。


「この中に偽物と本物の炎があるの。その中心には核があるわ。あなたは偽物の炎を選び、中の核を抜いて消してちょうだい。ただし二つだけ本物の炎があるの、灼熱の炎よ。触ったら皮膚はまず焼け落ちる。片腕を失っても、もう片方の手を使ってもいいけど、外したら両腕を失うわね」


「なっ……!」


「けれど核を取れたら、あなたの聞きたいことを話してあげる。七分の二の確率……どう? ラズ様、戦う力はないけど、運なら大丈夫でしょう?」


 確かに不思議な力を使うカミナと戦ったら、まず勝てない。これなら運次第、そして本物を見極める自分の眼力次第。


(しかし……)


 周囲を回る炎を見るが見た目ではどれも同じ赤い炎。距離があるから熱さも感じない、匂いがあるわけでもない。


(ミスしたら腕がなくなる)


 片腕くらいなら、まだいいかもと思う。両腕がなくなれば穴の中への探索ができなくなってしまう。


「やめても別にいいわよ? 何も教えないけどね」


「……」


 炎を見つめ、ラズは再度喉を鳴らす。嫌な汗が首筋を伝う。

 しかし何も教わらないで大地の民を救うことはできるのか。穴の中に潜って呪いの主に『自分の命はいいから他の者は助けてくれ』と言って全てが解決するだろうか。


(呪いを断ち切るには……その元を知らなければならない。カルスト家が何をしたのか。大地の民に何が起きたのか)


 どちらにしても尽きる可能性が高い命だ。身体の一部だろうが二部だろうが、皆が助かる可能性が高い方を選ぶ。見極める……それが領民を率いる者の役割だ。


「わかった、やる」


「さすがラズ様」


「五個の偽物が選べたら全て教えてくれるんだろ?」


「えぇ、いいわよ」


「一つ、間違えても腕がなくなるくらいなんだろ?」


「そうね。カルスト家の人間を、簡単に殺しても面白くないものね」


 シリシラが『怖い』と言っていた理由がわかる。

 彼女は容赦ない女性なのだ。

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