第17話

やっと言うべき言葉を見つけたわたしは、なるべくさりげなく聞こえるように、ぎこちない笑顔を作って言った。


 「くるみさんは、優しい人ですね」


 ……どうか、さりげなく、くるみさんの耳に聞こえていますようにと願いながら。


 「そんなことないよ」と躱すくるみさんの言葉は、一音一音がしんみりと温かい。


 「本当に優しいのは、まどちゃんのほうだから」


 「……? そんなことないですよ」


 不思議な台詞がまたわたしをはぐらかそうとしている気がして、その言葉を離すまいとする。


 くるみさんはわたしの目を何秒か見つめたかと思うと、ふと逸らして頭に手をやった。


 「まどちゃんが優しいから、そのぶん、前もってお返ししてるだけっすから」


 「ええっと……どういう……」


 「ま、そういうことっす」


 「……そういうことって……」


 逸らした目をもう一度、やさしく、わたしの目に合わせて、いたって真面目な声で。


 「まどちゃんはそのままでいいってこと」


 「……」


 にこ、と歯を見せて笑ったくるみさんに上手くはぐらかされて、わたしは納得のいかないまま考える。


 


 くるみさんが気付かせまいとするのなら、わたしはなんとしてでも気付けるように、くるみさんのことを追い続けよう。


 わたしが気付いていることは気付かせないように。くるみさんの優しさを、わたしだけは、見過ごさないようにしよう。



 

 じっと動かないわたしの視線にくるみさんは、「な、なんすか」と困ったようにたじろぐ。


 「えっと……? なにか怒ってる……?」


 「ええっ? そんなわけないじゃないですか!」


 急に声が大きくなってしまったわたしに、くるみさんは何を思ったのか、真顔のままぱちんとウインクした。


 「なっ……」

 

 「もしかして、見惚れてたのかな~なんて」


 「そっ、そんなわけないじゃないですか」


 「ははっ、なんちゃって」


 躱されてばかりの悔しさに、顔に熱が集まってきたのを感じながら、精一杯睨みつけてみると、くるみさんは凝りもせずに綺麗なウインクをもうひとつ寄越した。


 ほら、本当に優しい人に、わたしが勝てる日なんて来そうもない。

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