気付かれないように、気付かないように

第14話

あれから一週間後、さえこさんは無事に胃腸炎から復帰し、休んだ分を取り戻すかのようにせわしなく働いている。


 「あたしだけじゃなく伯父さんまで迷惑かけたんだって? ホントにごめんなさい。まどちゃんを一人にするなんて、酷いことしちゃって」


 「そんな、とんでもないです。さえこさんも店長も元気で戻ってきてくださって……」


 「でも、まだバイトに慣れるだけでも大変なまどちゃんを一人で出すなんて。信じられない! 伯父さん、さっさとお店を閉めちゃえばよかったのよ」


 復帰以来ずっと店長に怒っているさえこさんに、なぜか元気づけられる気がして、苦笑いをした。


 「あの日は、ちょっと大変でした。なんとかなりましたけど」


 「そりゃそうよー! まどちゃんさ、愚痴でもなんでも、そうやって吐き出していいのよ? 店長がいつも正しいなんてこと、絶対にないんだからね」


 店長に聞こえるんじゃないかと心配になるくらい良く通る声でさえこさんは怒っている。ありがとうございます、と言うとさえこさんは眉を下げて頷いた。




 あの日、なにもできないわたしを助けに来てくれたのは、偶然忘れ物を取りに戻ってきたくるみさんだった。


 詳しいことは聞けていないけれど、あの場は丸く収まったらしい。くるみさんが出てきた時、お店の中の空気が変わった。張りつめたものを和らげる特別な力を、くるみさんは持っているみたいだ。


 わたしがどうしても手に入れられない才能を持っている。


 その才能を、どうやら、わたしのために使ってくれた。




 「……くるみさんって、優しいですよね」


 口に出すつもりがなかった言葉がぽろりとこぼれ落ちて、驚きに固まったわたしの頭上から、けらけらと笑い声が降ってくる。


 「はは。優しいよねえ。不真面目そうに見えて、すっごく義理堅いし」


 なんのことかと首を傾げると、さえこさんは「あれ、知らない?」と目を瞬いた。

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