第13話
ぎょろりとした目はわたしを離さない。喉からはもう変に掠れた息しか出てこなくて、緊迫した空気にあと二組のお客さんの息遣いまで聞こえてきそうだ。心配そうにこちらを伺う視線が痛い。わたしのせいでこんなことに。せっかくのお休みをこのお店で過ごそうとして来てくださったお客様に、わたしはなんてことを――
「申し訳ございません、わたしの責任で――」
「あーーーっ! お客様ーーー!」
前のめりに沈み込みそうになっていた空気が一気に引き戻される。発しかけた言葉も床に落ちてしゅんと消える。
とん、と右肩に置かれた手の重みに、泣き出しそうになった。
「くるみさん」
くるみさんはわたしの声にはこたえず、とん、ともう一度肩を叩いて、男性に向き直りまっすぐ頭を下げた。
「申し訳ございません。店長がただいま出てくることができませんので、僕が対応させていただきます。恐れ入りますが、もう一度お話を伺ってもよろしいでしょうか」
「この子に聞いたらどうなんだね」
「僕が責任をもって対応させていただきますので。彼女はもう下がらせますね。反省はしてますし、しっかり後で言っておきますから」
くるみさんの優しい目と、お客様の訝しむような目を同時に向けられて、わたしは深々と頭を下げることしかできなかった。
音を入れるのも拒絶したわたしの耳には、自分の心臓の音だけがうるさく鳴っていて、遠くでくるみさんの穏やかな声がこだまのように響いている。そのふわふわとしたリズムが、パニックになるわたしの肩をとんとんと叩いて、落ち着かせようとしてくれているような気がした。
キッチンに回る途中の通路でぺたんと床に座り込んだまま、ぎゅっと目を瞑っていた。怖かった。何もできなかった。でも店長にもお客様にも心配をかけないように、頑固に譲らなかったわたしがいた。
それから、どれくらい時間が経ったのだろう。
「まどちゃん」
「……く、っみさ、」
「もう大丈夫。頑張ったっすね」
頑なに顔を上げないわたしの後ろから、ぽんと背中を叩いて、くるみさんはわたしを通り過ぎて前に立った。
「さ、今日はもう終わりだから」
「……は、い」
「立てる?」
「立、てます」
「なら、よかった」
てんちょー、といつもみたいに気の抜けた声で店長を呼ぶ声がぼんやりと耳に入ってくる。緊張の糸が切れたわたしは、立ち上がってもしばらくそこから動くことができなかった。
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